新しい法律で少額訴訟制度ができたそうですが、どんな内容ですか。



 平成10年1月1日から施行された新民事訴訟法では、少額訴訟について特則を設けました。これは、簡易裁判所の管轄に属する訴訟事件のうち、特に小規模な紛争については、一般市民が安い費用で迅速な解決を裁判所に求めることができるようにすることを目的として創設されたものです。
 手続の要点は以下のとおりです。
(1) 30万円以下の金銭請求事件が対象になります。
  30万円以下の金銭請求事件だと、弁護士に依頼しないと解決できない程の複雑な紛争ではありません。当事者は、自分で訴訟しようと思ったら利用できるようにこういう制度を創ったのです。
(2) 原則として1回の期日で審理を終えて、即時に判決が言渡されます。
  簡易裁判所での事件でも、これまでの裁判は長すぎる傾向にありました。それを1回の期日で迅速に紛争を解決するようにしました。
(3) 1回の期日で審理を終えて、直ちに判決を言渡すのですから、証書や同行証人など即時取調べ可能な証拠に限って証拠調べをします。従って、最初の口頭弁論期日前か、遅くともその期日中にすべての証拠を提出できるように準備しておかなければなりません。
(4) 少額訴訟は、一般市民に利用しやすく、分かりやすい手続きを目指していますので、柔軟な審議方式を採用しています。
  一例を上げると、証人尋問をする場合にも証人に宣誓させないこともできますし、尋問の順序も裁判官が相当と認める順序で行えますし、電話で証人尋問することなども認めています。
(5) 判決の主文に特徴があります
  「判決による支払の猶予」が認められました。
  原告は、勝訴の判決を受けても、被告が任意に支払わないと強制執行をしなければなりません。これでは費用や時間、労力の点で割に合わないのです。
  そこで、裁判所が原告の請求を認める場合でも、被告が任意の履行をしやすいように配慮し、少しでも原告の強制執行の負担を軽くするため、1.支払期限を定めること、2.分割払いの定めをすること、3.1又は2と併せて提起後の遅延損害金を免除する定めをすることができます。
  判決による支払の猶予は、判決言渡日から3年を超えない範囲内であれば、裁判所が裁量で決めることができます。
  この「判決による支払の猶予」について、当事者は不服を申立てることはできません。 (6) 少額訴訟手続を利用できる回数は、10回以内と制限されています。
  これはサラ金業者やクレジット会社など特定の者が独占的にこの手続きを利用することは好ましいことではないからです。広く一般市民が少額訴訟を利用できるようにするために、同一の者が大量に事件を持ち込むことを制限したのです。   利用回数は、簡易裁判所ごとにカウントされ、1年間に10回を限度とします。
(7) 訴訟が30万円以下の金銭請求事件がすべて少額訴訟手続で処理されるわけではありません。
  原告は、少額訴訟手続によるか、通常の手続によるか選択することができます。
  被告の方でも、原告が少額訴訟手続を選択した事件を通常の手段に移行させることができます。
  さらに裁判所は、少額訴訟で審理及び裁判をするのを相当でないと認めるときは、職権で訴訟を通常の手続に移行させる旨を決定します。現場検証をしないと紛争が解決しないとか、証人が多数に及び、1回や2回では審理を完了することが困難であるような事件は少額訴訟手続によるのはふさわしくないのです。
(8) 少額訴訟手続は、反訴(被告が原告を相手方として逆に訴を起こすこと)は提起できません。
  反訴の提起があると原告はこれに対する答弁をする必要がありますし、裁判所は原告の答弁をまって審理を進める必要が生じます。これでは1回の裁判の審理を終了するという少額訴訟の利点が生かすことができなくなるからです。
(9) 少額訴訟の判決に対する不服申立は、当該簡易裁判所に対する異議申立に限られています。
  通常の手続と同様に不服申立ができるとすると、せっかく1回審理で迅速に判決に至っても紛争の最終的な解決までに結局相当の時間と費用を要することになってしまいます、これでは、少額訴訟手続を設けた趣旨がそこなわれます。
  少額訴訟の判決に対して異議申立を認めて、同一審級において証拠制限のない通常の手続による再審理を受ける機会を保証しています。
  異議審の終局判決については、控訴を禁止していますので、少額訴訟は一審限りの手続ということができます。
 以上が少額訴訟制度の概略ですが、簡易裁判所へ行けば、訴状や答弁書のひな型書式が備付けてありますし、それらの書き方などをはじめ、この制度の内容について教えてもらえます。