生命保険契約の申込みをしようと思っていますが、告知義務違反で保険金が支払われない場合があると聞きました。告知義務とは、一体どんなものですか。具体的に告知義務違反で保険金が支払われるかどうか争われた例があったら教えて下さい。


生命保険会社は、保険の申し込みに対して承諾するかどうか決定するために必要な資料を収集します。そのとき、保険契約の申込者や被保険者が自分が知っている範囲で保険会社に危険選択に関する重要な事実を述べるべき、義務のことを告知義務といいます。 
 生命保険会社は、保険事故発生に関する危険測定の資料を収集するには、申込者さや、非保険者から事実を申告してもらいます。
 この申込者や非保険者は、保険会社に危険選択の資料を話してやる義務があるのです。
 告知義務違反があると、保険会社は、保険解約を解除して、保険金の支払いを免れることができます。
 告知義務違反が争われ、保険金が支払われなかった具体例は以下のとおりです。
1. 10年前から気管支喘息症の持病があって、保険契約締結の直前、同疾病のため医師の治療を受けていたのに、保険契約の際これらを審査医に告知せず、その数ヶ月後に同疾病で死亡した例。
(東京地裁昭和47.11.1判決)
 気管支喘息は、被保険者の保険者の危険を測定するための重要な事実ですし、直前に治療を受けていた事実も重要な事実ですから、これらを告知すべきです。
2. 肝硬変症により治療を受けていたが、生命保険に加入の際、審査医に肝臓病のこ とを告知しなかったところ、保険加入後1年半後肝硬変症で死亡した例。
(大阪高裁昭和53.1.25判決)
 肝臓病は、判例上例外なく告知すべき重要事項とされています。
3. 健康診断で胸部レントゲンにより右肺に肺腫瘍と疑われる異常が発見され、医師から入院勧告されて入院の予約をした。ところが、保険診査を診査医によって受けたとき、これらの事実を全く申告せず、診査医も通常の聴診や打診を行っただけで、肺ガンを発見できなかったため、生命保険に加入できた。ところが、半年後、肺ガンによって死亡した例。なお、診査の際、レントゲンや血沈の検査は受け ていない。 
(東京地裁昭和61.1.26判決)
 肺ガンの病名が告げられなかったとしても、レントゲン写真に異常があり、医師から入院を勧められて入院の予約をしたことは、胸部に重大な疾患がある可能性を示唆するものですから、告知義務の対象となります。 
 しかし、保険会社は、告知義務違反があったとしても、診査医に診察上の過失がある場合には、告知義務違反に基づく解除権を行使することが許されません。
 ところで、保険診査における、診査医の診査は、治療を目的とするものではありませんから、一般開業医が行う聴診、打診、触診等の健康診断で行う程度のもので 十分です。
  この事例の場合、一般開業医が行う程度の診査を行って、肺ガンを発見 できなかったのですから、保険医に過失はないでしょう。聴診や打診で異常が疑わ れたらレントゲンや血沈検査を行うべきだと思いますが、そうでない場合には、そ こまで検査しなかったとしても診察医に過失を問うのは難しいと思います。
 次に、告知義務違反が争われたが、保険金を支払う必要があるとされた具体例は以下のとおりです。
1. 保険診査にあたって、診査医に既往症である急性腎臓炎で、1年前に治療した事実を告知せず、保険契約加入した。
 ところが、今度、胆石症で入院したので、入院給付金を請求したところ、保険会社から告知義務違反で保険契約を解除され、入院給付金を支払ってもらえないので争った例。
(参考判例・大審院昭和4.12.11判決)
 告知義務違反があったとしても、告知義務違反の対象となった事実と発生した保険事故との間に全く因果関係がない場合には、保険会社は、保険金を支払う必要があります。
 保険事故となった、胆石症と急性腎臓炎との間には医学上何らかの因果関係もありません。従って、保険会社は入院給付金を支払わなくてはなりません。
 しかし、急性腎臓炎の点については、告知義務違反があったのですから、結局保険会社は、入院給付金支払わなければなりませんが、保険契約を解除することはできます。
2. 口内炎、低血圧症等の病歴はあったが、告知書にはそれらの病名の記載がなかったため、それを告知しないまま保険契約を締結した。その後、白血病により死亡した例。
(熊本地裁昭56.3.31判決)
 およそ告知書の質問事項は、それ自体生命の危機測定に関する重要な事実と考えられています。
 ところが、質問事項には口内炎とか低血圧症という病名が記載されていないので、原則としてこれらは重要な事実ではありません。
 したがって、本件の場合、これを告知しなかったとしても告知義務違反とはなりませんので、保険金を請求できます。