離婚の際、慰謝料をもらいましたが、税金がかるのでしょうか、。財産分与として不動産をもらいましたが、税金はかかるのでしょうか。財産分与・慰謝料を給付した相手方には税金はかかるのでしょうか。


A.財産分与・慰謝料を受けた人にかかる税金と財産分与・慰謝料給付をした人にかかる税金とに分けて説明します。 一.財産分与・慰謝料を受けた人にかかる税金
(一)財産分与を受ける側の課税関係
(1)原則
 「婚姻の取消し又は離婚による、財産の分与によって取得した財産については贈与により取得した財産とはならない。」とされています。(相税基本通達9-8)
 従って、財産分与を受けた人には、贈与税はかかりません。これが原則であります。
 財産分与請求権の法的性質については、1.婚姻中に夫婦が共同して蓄積した財産の清算的側面、2.離婚後において生活に困窮する配偶者に対する扶養的側面。3.有責配偶者に対する慰謝料的側面の三要素から構成されていると解されますので、財産分与請求権に基づき取得した財産は、単純に配偶者の一方から贈与されたものではないからであります。
(2)例外
 第一に、「その分与に係る財産の額が婚姻中の夫婦の努力によって得た財産の額の他一切の事情を考慮してもなお過当である部分」については、贈与によって、取得した財産とされます。(前記通達但書)
 それは、例えば、婚姻期間がわずかであって、蓄積財産がほとんどないにも拘わらず、過大な分与を行う場合です。このような場合にも贈与税が全くかからないとするのは、公平の原則に反するので過当部分に贈与税が課税されます。
 第二に、「離婚を手段として贈与若しくは相続税のほ税を図ると認められる場合における当該離婚により取得した財産の価格」は、贈与によって取得したものとされます(前記通達但書)。例えば、財産分与の形式によりいったん配偶者に財産を移転した後、短期間で同一配偶者と再婚する場合や、債権者等の追求を免れるため配偶者と離婚を仮装し、財産分与によって財産を移転しながら離婚前と全く同様に同居生活を続ける場合などが典型例といえます。このような租税回避のみを目的とする財産分与契約は、通謀虚偽表示として無効となることが多いでしょうから、課税実務上も当事者間で贈与があったものとみて処理されます。(相税基本通達9-9)
(二)慰謝料を受ける側の課税関係  離婚に伴う慰謝料は、民法709条の不法行為の規定に基づき、婚姻を破綻させたことに伴う精神的苦痛に対する損害賠償(民法710条)として支払われるものです。このような損害賠償金の取得に対しては、社会通念上課税するのが相当でないと認められます。したがって、課税実務においても「心身に加えられた損害につき支払いを受ける慰謝料その他の損害賠償金」は、非課税とされています。(所得税法9条1甲16号、所得税法施行令30条1号)。財産分与に含まれる慰謝料的部分については、この観点からみても非課税とされるわけです。   
二、財産分与・慰謝料給付をした人にかかる税金
(一)税金等の譲渡
離婚に伴い夫婦の一方が他方に対して、現金又は預貯金等の金銭債権を譲渡する場合は、その法的な原因が、財産分与であれ慰謝料であれ、譲渡所得税は、課せられません。
(二)不動産の譲渡
 離婚に伴う財産分与として不動産を譲渡した場合には分与者に課税するのが課税当局の立場です。  すなわち、「民法768条の規定による財産の分与として資産の移転があった場合には、その分与をした者は、その分与をした時においてその時の価格により当該財産を譲渡したことになる。(所税基本通達33-1の4)。その理由は、「財産分与による資産の移転は、財産分与義務の消滅という経済的利益を対価とする譲渡」であると解するからです(同通達規定注書)。  例えば、2000万円で購入した土地建物を財産分与として相手方に譲渡し、その時の時価が5000万円であったとします。この場合、5000万円の総収入金額に対し、控除すべき所得は、2000万円ですから、3000万円が課税すべき所得金額となります。最高裁判例も、課税実務と同様の立場をとっています。(最判昭50.5.27民集29巻5号641項、同旨最判昭53.2.16裁判集民事123号71項)。  これに対し、財産を得た者に課税されるのであればともかく、財産を渡した分与者に課税するのは常識に反するとの国民感情があり、批判的な立場の学説も少なくありません。 (三)慰謝料  離婚に際して、慰謝料として不動産を譲渡した場合は、相手方に対して負担していた慰謝料債務を、その財産の価格の範囲内で弁済したわけであるから、当該財産の時価相当の対価による資産の譲渡があったものと解するべきです。したがって、財産分与の場合と異なり、その譲渡に対して譲渡所得税が課せられることについて特に異論はありません。   (四)居住用財産の譲渡所得税の特例   財産分与又は、慰謝料として自己の特有財産である居住用不動産を譲渡した者は、特別控除( 3000万円、租税特別措置法35条)の制度を利用できるか否かが問題です。  この特別控除の制度は、その条文上「当該個人の配偶者その他の当該個人と特別な関係がある者」に対しする譲渡には適用することができない旨規定されています。そこで、財産分与又は慰謝料を受けた者が分与者の配偶者等に当たるか否かが問題となりますが、これは譲渡をした時点において判定することになっています。   従って、離婚前に財産分与した場合には、この特別控除の制度を利用できません。課税庁は、離婚成立の日付の財産分与ではまずいようです。離婚後に遺産を移転する財産分与や慰謝料の場合は、その取得者は分与者の配偶者等には該当しませんので特別控除の制度の適用を受けられます。
(五)有価証券の譲渡
 平成元年4月1日以降の有価証券の譲渡については、1.株式等の譲渡による所得については、原則として20パーセントの税率により、申告分離課税又は源泉分離課税とし、2.株式以外の有価証券の譲渡による所得については、原則非課税とするとされました。
 この結果、離婚に際しての財産分与又は慰謝料として、上場株式を相手方に譲渡する場合は、申告分離課税として、他の所得と区別して20パーセントの税率により課税されます。購入時からの価格上昇が著しい上場株式を譲渡すると、他の資産を譲渡した場合に比較して課税面での不利益が大きいので注意しておく必要があります。