当社の従業員が勤務を終え、自己所有の車で帰宅途上において、歩行者をはね死亡させてしまいました。  会社は法的責任を負うのでしょうか。  また従業員を懲戒解雇処分にすることが妥当でしょうか。  飲酒運転の場合は 懲戒解雇してもよいと思いますがどうでしょうか。


1.従業員の交通事故について、会社が責任を負う場合の根拠条文は次の2つです。
 (1)民法第715条の使用者責任
 (2)自動車損害賠償保障法3条の運行共用者責任
 本件の退勤時における交通事故については、従業員の職務執行行為の範囲に含まれます。従って、(1)の民法第715条により、使用者である会社が被害者に対して損害賠償責任を負います。
 従業員が会社への通務にのみ使用していた自家用車が、通勤途上事故を起こしても、会社が運行供用者責任を負いません(東京高判昭45.2.5、判事656.54、東京地判昭47.719、判夕285.284)。 
 しかし、会社が社員の自家用車を継続的に社用に使用し、燃料費、修理費などの費用も負担していた場合などは、通勤は社用使用の前提となる自家用車の会社への持ち込み、持ち帰りのものともなるから、通勤途上においても会社の運行支配は及び、運行供用者責任を負うことになります。
 民法第715条の使用者責任を負わせるためには、従業員に故意、過失があることを要しますが、自賠法第3条では、運転者の故意、過失は損害賠償の積極的要件とされていません。保有者が運転者の無過失を立証すれば面責されます。自賠法3条による責任は、民法第715条より厳格になっています。
 2.懲戒解雇事由に該当する行為があった場合、当該行為者を懲戒解雇にするかどうかは会社の自由裁量に属することではありますが、その裁判は厳格にかつ客観的になされるべきであり、その処分が客観的妥当性を欠く場合には、懲戒解雇権の濫用と解され、その処分は無効となります。
 従って、従業員が死亡事故を起こしたことが、会社の社会的評価を著しく失墜させ、また業務に対する重大な支障を生じさせたという客観的事実が存在する場合でなければ、当該従業員を懲戒解雇処分にすることは出来ないと思われます。また飲酒運転により死亡事故をおこしたときでも、その事故の態様等如何によっては、懲戒権の濫用になる場合があると思います。