製造物責任の期間の制限


 製造物責任に基づく損害賠償請求権について、期間の制限があるのですか。欠陥がある限り、いつまでも製造業者の責任追求できますか。


 PL法に基づく損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び賠償義務者を知った時から3年の消滅時効にかかります(法第5条1項前段)。損害賠償の請求ができることを知っていながら、3年間も権利を行使しない者は保護に値しないからです。
 3年の消滅事項の起算点は、被害者が「損害及び賠償義務者」の双方を知った時です。「損害を知る」とは、製造物の欠陥によって損害が発生したことを知れば足り、その損害の程度や額の詳細についてまで知らなくてもこれを該当します。また「賠償義務者を知る」とは、実際に損害賠償を請求する相手方となる「製造業者等」を知ることです。
 次に、PL法の基づく損害賠償請求権の除斥期間を10年と規定しました(法第5条1項後段)。上記の3年の短期消滅時効は、「損害及び賠償義務者を知った時」を起算点としていますので、被害者が「損害及び賠償義務者」を知らない限りは永久に責任が存続することになってしまいます。これでは社会生活の安定性を確保することができません。そこで、「その製造業者等が当該目的物を引き渡した時から10年を経過したとき」は、製造物責任に基づく損害賠償請求権は、除斥期間の経過により消滅することにしたのです。
 一般の不法行為の場合の除斥期間が20年とされています(民法第724条後段)が、PL法においては10年とされましたので、製造物責任の期間制限は、製造物責任法が適用され、民法の不法行為責任の時効制度は適用されません。製造物の耐用年数は、比較的長期間使用されるものであっても10年程であり、また使用期間は7年程ですから、PL法において10年と短縮されました。
 10年の除斥期間の経過によって、被害者の損害賠償請求権が消滅するとしますと、その損害のなかには@身体に蓄積した場合に人の健康を害することになる物質による損害、又はA一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害については、損害が顕在化するまで長い時間がかかってしまい、損害が顕在化した時点では、除斥期間の経過により損害賠償の請求が不可能となっているという事態が考えられます。これでは、被害者の保護ができません。
 そこで、法第5条2項は「蓄積損害」と「潜伏損害」の場合については、「その損害を生じた時」から10年の除斥期間を起算することにしています。製造業者等が当該製造物を「引き渡した時」ではなく、「その損害が生じた時」まで起算点を遅らせたのです。水俣病で問題とされた有機水銀などは、長期間使用することによって有害物質が徐々に身体に蓄積されますが、これが「蓄積損害」の例です。また、ウィルスや細菌などの病原体が混入されたワクチン、医療品などが「潜伏損害」の原因の具体例です。