PL法における損害賠償の範囲


 製造業者は、どのような損害について、どのような範囲で製造物責任を負うのでしょうか。



 PL法では、欠陥により「他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」と規定しています(法第3条本文)。
 損害賠償の範囲については、PL法上の責任は、民法の不法行為責任(民法第709条)の特則ですから、民法の不法行為に関する通説、判例のとおり相当因果関係の範囲内でのみ損害賠償責任を負うことになります。相当因果関係があるとされるのは、第1に、その行為がなければ損害が生じないであろうと認められ、且つ、第2に、そのような行為があれば通常はそのような損害が生じるであろうと認められる場合です。
 民法第416条は、債務不履行について「通常生ずべき損害」の賠償を原則としつつ(1項)、特別の事情による損害も加害者に予見可能性があれば、賠償すべきだとしています(2項)。この規定は相当因果関係の範囲を定めたものと解釈され、不法行為の場合もこれによるべきだというのが通説判例です。これをPL法に当てはめると、その欠陥から通常生ずべき損害、または特別の事情に基づき発生した損害については、予見可能性のある損害のみを賠償する責任があるということになります。
 以下に、製造業者が責任を負う損害について、損害の種類ごとに説明します。
1、人的損害
 (1)財産的損害
  財産的損害は、被害者が受傷・死亡により出費させられた「積極損害」と被害者が受傷・死亡しなければ取得していたであろう利益を取得出来なかったという「消極損害」とに分けられます。
  1.積極損害
   例えば、治療費、付添看護費、入院雑費、通院交通費、葬儀費用、弁護士費用等です。
  2.消極損害(逸失利益)
   受傷により休業した場合は、休業しなければ取得していたであろう利益、被害者が死亡した場合には、被害者が生存していたら取得していたであろう利益が損害となります。
 (2)精神的損害
   慰謝料も賠償の範囲に含まれます。
2、物的損害
 (1)当該製造物自体に生じた損害
  例えば、テレビの欠陥によりテレビの内部が燃えただけで火が消えた場合のように、欠陥がある製造物自体に損害が発生したが、他には損害が発生しなかった場合には、当該製造物責任を負いません(法第3条但書)。
 その場合の被害者は、テレビの売主に対し、民法上の瑕疵担保責任責任や債務不履行責任を追求することになります。
 (2)製造物自体の損害以外に損害が発生した場合
  例えば、テレビの欠陥によりテレビから出火して、テレビが消失したうえ、さらに建物に燃え移り建物が全焼した場合です。製造物自体の損害以外に発生した人的損害や物的損害のことを「拡大損害」といいますが、製造業者等は拡大損害について、製造物責任を負います。これらの損害は相当因果関係の範囲内の損害です。
 拡大損害が発生した場合、製造業者は製造物自体の損害について、製造物責任を負わないとなると、被害者は製造物自体の損害については契約責任で、それ以外については製造物責任を追求するという不便を強いられる結果となります。その場合には、製造物自体の賠償の対象とするのが相当です。
3、事業者に生じた人的損害以外の損害の取扱い
 被害者が、事業者であった場合又は被害の対象が事業用財産であった場合にも、我が国ではPL法の適用を受けます。
4、懲罰的損害賠償・免責額・責任限度額の不採用
 我が国のPL法は、諸外国の一部に採用されている「懲罰的損害賠償」「免責額」及び「責任限度額」の制度は採用していません。
 「懲罰的損害賠償」とは、製造業者に故意又は重大な過失が認められる場合に、被害の賠償とは別に、同種事故を防止するため、そのような行為をした者に対して、制裁として損害賠償義務を課すものです。
 「免責額」とは、少額の訴訟が多発することを防止するために、一定金額以下の損害について製造業者の責任を免除する制度です。
 「責任限度額」とは、製造業者の賠償額が非常に高額になることから、一定の責任限度額を設けるという制度です。