当社は取引先から売掛代金の支払いとして小切手を受け取りました。
 ところが、取引先からしばらく銀行に廻さないでほしいと頼まれましたので、そのままにしておいたところ、振出日から20日たってしまいました。
 この場合、この小切手は有効でしょうか。



 小切手の所持人である貴社が振出人に請求する場合、振出日から10日以内に小切手を呈示しなければなりません(小切手法29条1項)。小切手の所持人が振出人に請求する権利を遡求権といいますが、これを行使するには適法な時期に小切手を呈示しなければなりません。もし10日の期間内に呈示をしなかったら遡求権は消滅してしまうのです。貴社の所持している小切手は、振出日から20日も経過していますので、この小切手で取引先に請求することはできません。
 それではどうしたらよいでしょうか。一緒に考えてみましょう。
 1つの方法は、売掛代金債権による請求です。貴社は取引先から売買代金の支払いとして小切手を受け取られたのだと思います。
 小切手振出の原因となった法律関係を、原因関係といいます。小切手の振出を受けたとき、原因関係の権利を消滅させると当事者間で約束した場合は、売掛代金債権は消滅します。買掛債務の支払いに代えて小切手を振出した場合です。しかし、これ以外の場合は、原因関係の権利と小切手上の権利は併存します。買掛債務の支払いを担保にするためにとか、支払いの方法として(支払いのために)小切手を振り出した場合です。貴社が取引先から小切手を受け取るとき、売掛代金債権を消滅させますと約束したのでなければ、その権利はその権利は消滅していません。したがって、小切手上の権利が消滅しても売掛代金債権による請求をすることができます。
 もう1つの方法は利得償還請求権の行使です。
 一方、小切手の所持人が小切手上の権利を失ってしまうのに、他方、債務者が完全に免責されて、小切手授受によってえた利得をそのまま保持できることになるのは不公平です。そこで、債務者が利得を得たことを所持人が証明すれば、その利得の償還を請求することが認められています(小切手法第72条)。これを利得償還請求権といいます。しかし、原因関係上の売掛代金請求債権を有している場合には、判例は、債権者が利得を得ていないとして利得償還請求を認めていません。


 平成7年1月17日に発生した阪神大震災により、自宅のブロック塀が倒壊し、隣家の家屋を半壊させてしまいました。私に損害賠償責任があるのでしょうか。
 阪神大震災により、自宅が半壊しましたが、隣家の家屋は大丈夫でした。被害があまりにも大きく後始末に手もつけられない状態です。ところが、隣家から半壊した家屋を早く撤去してもらわないと、二次災害が起きて、家が倒れて隣家の家屋に損害が発生する恐れがあると言われました。このままにしておいたら私に損害賠償責任が発生するでしょうか。



 阪神大震災(兵庫県南部地震)は、死者5270名、負傷者2万6800名を越え、倒損壊家屋10万8000棟など未曾有の人的、物的損害をもたらしました(2月6日現在警察庁まとめ)日本の技術者らが安全性に自信があると豪語していた高速道路が倒壊してしまう程の地震でしたが、道路、家屋、ブロック塀などの安全性が社会問題になっています。
 地震は天災だから被害を蒙ってもしかたがない、被害者はどこにも責任を追及できないという一般的な考え方があります。
 これに対し、地震の被害を防ぐために耐震構造の建物にするなどしておけば、地震の被害を防止できた筈であるのに、これを怠った為、被害を発生させた場合には、損害賠償責任を負うべきだという考え方も当然あります。
 ご質問の自宅や自宅のブロック塀が倒壊して、そのために隣家に被害を及ぼしたり、及ぼすおそれがある場合に、法的責任として考えられる法律の条文としては、民法717条があります。これは工作物の瑕疵による責任で、土地の工作物の設置または保存に瑕疵がある場合に、工作物の占有者および所有者に損害賠償を認めるものです。
 土地の工作物とは、土地に人工的作業を加えて作った道路のような物と、地上および地下に人工的に設備された各種の物とを広く含んでいます。従って、ご質問のブロック塀、建物は土地の工作物にあたります。
 この民法717条の責任は無過失責任といわれておりますが、これにより法的責任を負うのは、設置、保存に瑕疵があった場合です。
 瑕疵というのは、その物が本来備えているべき性質や設備を欠いていることです。地震による倒壊の場合には、通常発生することが予想される地震に耐えうる安全性を有していない場合には、瑕疵があるといえます。通常予想される地震とはどの程度のものかが問題になりますが、過去に発生した最大級の地震が一応の基準といえます。過去最大級の地震を全国規模でみるのか、地域規模でみるのかですが、地震が地上の建築物に対して及ぼす影響は、地震そのものの規模に加えて、当該地域の地盤の堅さ具合、当該建築物の構造、施工方法、管理状況によって異なってきますから、その地域近郊における過去最大級の地震を基準とするべきと考えます。
 そこで、この度の阪神大震災は、地震がおこらない地域と思われていたところで発生してものであり、また震度が7という予想外の大地震で戦後最大級の直下型地震であったことを考えますと、建物の倒壊やブロック塀の倒壊によって隣家に損害を与えたとしても、設置、保存に瑕疵があったとはいえないので、所有者らは民法717条による責任を負わなくてよいと思います。  また、ご質問の二次災害による責任についてですが、周囲の人々がほとんど復旧作業し、半壊家屋の後始末をしているのに、相談者だけが何ら手をつけずに放置して置いた為、二次災害が起きて隣家に損害を負わせた場合は工作物の「保存」に瑕疵があったとみられ、責任を負う場合がありえると思います。半壊家屋が倒れないように、つっかい棒をするなどの手当をしておく必要があるでしょう。
 逆に言えば、災害があまりに甚大で手をつけられない状況にあり、周囲の人々と同じように復旧作業をしていたにも拘わらず、二次災害で隣家に損害を負わせた場合には、止むを得ない保存状態であるとして、法的責任を免れるのではないでしょうか。
 阪神大震災では、家屋の解体費用は、自治体が負担する措置がとられるようですが、それによって、自治体が民法717条の責任を所有者などに代わって負担するという趣旨ではありません。従って、すぐにでも解体作業をしないと危険だと思われる建物については、自治体の解体作業を待たずに、所有者などがひとまず費用を負担して解体し、隣家に損害を及ぼさない措置をとってから、後日自治体に解体費用を負担してもらうべきでしょう。


 阪神大震災で借家が全壊しました。借家権はどうなるのでしょうか。家主が建て替えをした場合はまた借りられるのですか。  建て替えしない場合はどうしたら良いのですか。  土地を借りて家を建てて商売をしていたのですが、阪神大震災で家が全壊してしまいました。何とかして店舗を再建して商売を続けたいと思っていましたら、地主がその土地を他人に売ってしまったというのです。借地権はどうなるのでしょうか。



 借家契約は、家賃を払って建物を使用収益する契約ですから、建物が全壊した場合には、その原因が地震であろうとなかろうと賃貸借契約は終了します。  借地権を第三者に主張するためには、登記された地上建物が存在することが必要です(建物保護法第1条)。地震で建物が全壊した場合には、借地権は対抗力を失ってしまい、土地の買主にたいして、貴方は借地権があると言えないことになります。  以上のとおり、借家権も借地権も、建物が全壊してしまったら、どうしょうもないというのが原則です。  しかし、これでは、天災の地震で被害を被られた被災者にはあまりにも酷な結果となります。そこで、日本政府は、阪神大震災について、罹災都市借地借家臨時処理法を適用することにしました。この法律は、平成7年2月6日から、兵庫、大阪の33市町村で施行されることになりました。  この法律が適用されますと、家主が建て替えをした場合には、貴方は優先的に入居出来ます。家主が建て替えをしない場合には、借家人が優先的に土地を借りて建て替えの申し出をすることが出来ます。  借地権については、この法律によって、第三者に対し借地権の存続を主張できます。新しい地主が借地権のことを知らずに買ったのだと言っても、この言い分は通りません。但し、借地人は5年以内に建物を建ててその登記をする必要があります。したがって、貴方は、この土地に店舗を再建して商売を続けていけますのでご安心ください。


 普通借地権と違って、決められた時期に土地が返ってくる定期借地権という制度ができたそうですが、どういう内容の借地権ですか。




 いままでの借地権は、存続期間が満了したときは、地主が借地を明渡してもらうには正当事由が必要でした。正当事由の判断基準は厳格に解釈され、貸主が土地の使用を必要とする事情があるなどの場合に認められるにすぎなかったのです。そのため、存続期間が満了しても、正当事由がないと借地契約が更新されることが多く、貸した土地を返してもらうのは容易ではなかったのです。  これに対し、平成3年10月4日に新しい法律すなわち「借地借家法」が公布され、平成4年8月1日から施行されています。この新法は、従来の「建物保護に関する法律」と「借地法」と「借家法」の三法を一本の法律にまとめたものといえます。  この新法で、はじめて定期借地権という制度ができました。時期がくれば、借地権が更新されないという借地権が認められるようになりました。  定期借地権は、3種類が創設されました。@一般定期借地権A建物譲渡特約付借地権B事業用借地権の3つです。  一般定期借地権は、50年以上の期間を定めた借地権で、契約の更新がないこと、建物の再築による期間の延長がないこと、建物買取請求権がないことの特約ができるという借地権です。この借地権は公正証書などの書面による契約が必要です。借地期間が満了したときに、地主には更地で土地が戻ってくるのですから、地主には有利な場合が多く、今後かなり利用されるものと思われます。  次に建物譲渡特約付借地権は、借地権設定後、30年以上を経過した後に、地主が借地人からの建物の譲渡を受け、借地権を消滅させることができるという借地権です。建物譲渡特約においては、「相当の対価」を定めることが必要です。無償で建物を譲渡する旨の特約をしても無効です。対価の定め方は、30年以上も先の事態を予測することが困難であり、難しい問題ですが、「相当な対価」あるいは「譲渡時の時価」としておいて、算定のための基準、算式ないし手続を定めておく方法が望ましいと思われます。公示手段としては、所有権移転請求権を保全するための仮登記をしておくとよいでしょう。  最後は、事業用借地権ですが、事業用に供する建物を所有の目的とし、期間を10年以上20年以下とする借地権については、更新、再築による期間延長、建物買取請求権、更新後の建物の再築の代諾許可による借地人譲渡の各規定が適用されないという借地権です。従来は、郊外型レストラン、パチンコ店など店舗で事業をする場合、地主は借地権の設定を嫌うため、事業展開に支障を生じることがよくありました。地主としては、一旦土地を貸すと更新されて、いつ土地が返還されるか保障のない借地権の設定を望まなかったからです。ところが、事業用借地権は10年以上20年以下の契約期間が経過すれば、更地にして土地を返還するという借地権ですから、地主は安心して土地を貸すことができますし、借地人側も短期間の事業目的の場合には、利用しやすい借地権です。事業用については、「専ら」という限定がついています。従って、寮が一部ついているとか、社宅がついているとかのケースは、事業用借地権の対象にはなりません。なお、事業用借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければなりません。