新聞紙上「融通手形」を濫発して倒産したという記事を見ましたが、具体的にどんなことですか。



 最近の倒産事件によく見かけるのは、融通手形の濫発です。融通手形とは、商品の売買がないのに振出される手形のことです。いわゆる空手形です。受取人はこの手形を銀行など第三者のところへ持って行って、手形を割引いてもらい金を借りるのです。金融のために手形を融通するので、融通手形と呼ばれているのです。世間で手形を貸したとか、手形を借りたとかいっているのは、融通手形のことです。  銀行から借金ができなくなった会社が、取引先や友人に手形を貸してほしいと頼んで、融通手形を振出してもらいます。そして融通手形を銀行へ持っていって割引くと資金ができますので、信用のなくなった会社にとって、格好の資金調達手段です。取引もないのに手形を振出してもらって、それで資金をつくれるのですから、こんな便利なものはないのです。  しかし、便利なものには落とし穴があります。  融通手形の支払期日が来ると、それを借りた会社では資金をつくって取引先や友人に渡し、取引先らはその金で手形を決済します。手形を借りた会社が商売がうまくいって、融通手形を決済する資金を準備できれば問題は起こりません。しかし、もともと資金繰りに苦しい会社が、融通手形を決済する資金を常に準備できる筈がありません。そのうち、資金が続かなくなって融通手形を決済できなくなり倒産してしまいます。  すると、この手形を割引いた銀行は振出人に請求します。振出人は、頼まれて手形を振出しただけで、商品の売買のない融通手形であると抗弁した場合、銀行等第三者に対抗できるでしょうか。これはできないのです。振出人と受取人とが融通手形であることをわかっていても、これを第三者には対抗できないのです。第三者が融通手形であることを知らない善意者であろうと、融通手形であることを知っている悪意者であろうと、振出人の融通手形の抗弁は成立しないのです。  そうしますと、銀行等から手形上の権利を行使されますと、振出人は支払いを拒絶できないのです。好意で手形を貸してやったにも拘わらず、相手が倒産すると振出人は手形を決済しなければなりません。商売上の取引がないのに、手形を振り出したのですから、その手形を決済するのは大変なことです。融通手形が決済できないと、この会社も連鎖倒産の憂き目を見ることになります。  また、融通手形を互いに振出すというのも、世間ではよく行われています。資金繰りに苦しい会社同士が互いに融通手形を発行し合うのです。これは「書合手形」とか「馴合手形」とか呼ばれています。こういう場合は、互いの信用力を利用しあっていますので、一方が倒産すると必ず他方も倒産します。自分が振出した手形を相手方が振出した手形との2通とも決済しなければならなくなり、資金が続かなくなって倒産するのです。  銀行から借入れが出来なくなって、融通手形を利用しなければ事業をやっていけないという状態になったときは、すでにその会社は倒産の危険をはらんでいるといっても過言ではありません。



「手形パクリ事件」の実態はどのようになっているのですか。




 会社倒産の引き金が手形パクリにあったことだと経営者から聞かされます。事情を聴いてみると、パクリにあわなくてもその企業は倒産していたと思われる会社がほとんどです。こういう会社は銀行から借り入れが出来なくなり、前問で話しましたように融通手形に手をつけています。これに手をつけると遅かれ早かれ企業は倒産するでしょう。しかし、なかには、これといって倒産原因がないのに、たまたまその月の資金繰りに窮して融通手形を振出し、手形ブローカーに手形割引を依頼したところ、割引金をもらえず、手形パクリにあってそれがきっかけで倒産したという企業もあります。  どうしてそうなるのか、もうすこし詳しくお話します。  X社の社長Aは、月末支払い資金として100万円の不足で悩んでいました。すると、X社に手形割引業者から手形割引の案内が来ていたことに気づき、そこから資金を借りようと思いました。早速電話したところ、その業者では割引けないということで他の業者Bを紹介されました。割引料は月1割で銀行割引率より高いのですが、X社は銀行が相手にしてくれないし、資金を用意しないと月末の手形の決済ができず不渡り倒産してしまいます。X社は、やむなく融通手形を振出し、A社長は手形をBに手渡しました。Bは明日割引金を用意してくるといってくれました。  しかし、翌日になってもBはやって来ません。気を揉んでいたところ月末ぎりぎりになってBが割引金をもって来てくれました。それでA社長は手形を決済できたので安心し、Bを信用しました。そして、翌月になってまた資金ショートをおこしたA社長は、再びBに依頼しました。するとBは、そんなに資金が必要ならば多めに借りると安心でしょう、と言って額面100万円の手形5通を振り出すように言ってきました。AはBを信用していますので、手形5通を渡しました。ところが、その後BはAのもとに現れず、そうこうするうちに見知らぬ街の金融業者から手形が回って来て、X社はこれらの手形を落とさないと倒産してしまう事態に陥りました。結局、X社はBに額面100万円の手形5通をパクられたのです。  Aは、手形パクリにあって親戚への借金返済や資金繰りに悩んでいたところ、C、DがX社を訪れ「資金繰りに協力しましょう」と言ってきました。AはBに手形をパクられたと話しをすると、C、Dは口をそろえて「Bは手形詐欺師ですよ、私らに任せば安心です、必ず割り引いてきますから、親戚にも借金を返せるように額面200万円の手形5通を振り出してください」といわれ、これら手形を振り出しました。ところが、CもDも手形割引金を持ってきません。  後になって分かったことですが、BCDは業界では有名な詐欺師グループで、ぐるだったのです。こうなるとAは正常な判断が出来なくなってきます。親戚からはこれ以上借り入れできません、不渡りだけは出したくない、どんなことをしても手形決済資金をつくらなくてはならない、そんな思いで毎日を過ごすようになりました。もう仕事どころではありません。10日で1割の高い金利を取られようが、手形割引先を捜し回るようになり手形を濫発していきます。手形という紙切れで、少しでも現金がつくれればそれでよいという精神状態になっています。最初100万円の資金を準備するために手形割引をしたときから5カ月経過した時点で、借金は5000万円に膨れ上がってしまっていました。100万円の手形割引を依頼すると、手形ブローカーは額面100万円の手形2通を振出させるようです。割引いた手形1通が振出人において決済されるまで、担保としてもう1通預かるのが、手形詐欺師の手口のようです。手形パクリにあうと一銭も割引金をもらえないのに、割引に出した手形と担保に出した手形の2通の手形を決済しなければならなくなって、たちまち借金が膨らんでしまうのです。  このようにしてX社は、手形パクリにあって倒産してしまいました。


 破産をすると借金がなくなるときいたのですが、本当ですか。破産の免責という制度があるともきいたのですが、免責とはどういうことなのですか。どんな場合に免責されるのですか。




 破産宣告がなされ破産者となって破産事件が終了しても、破産宣告前の債務つまり借金は消滅しません。例えば、破産宣告後、破産者が有していた財産つまり破産財産を処分して破産管財人が全債権者に10パーセントの配当をしたとしますと、破産事件が終了しても90パーセントの借金は残ったままです。この場合、破産者が法人であると、破産により法人は解散してなくなってしまいますので、10パーセントしか配当を受けられなかった債権者は、90パーセントの債権を請求しようにも相手がなくなっていますので、さらに請求することはできません。この意味では、法人が破産者の場合には、破産によって借金はすべてなくなるといってもいいかも知れません。しかし、破産者が個人の場合には、破産が終了しても個人がなくなることはありませんので、債権者は破産者である個人に対し、残り90パーセントの債権を請求することができるのです。この意味で個人破産の場合には、破産宣告をうけても借金はなくならないのです。  それでは、個人破産の場合、借金をすべてなくする方法はないのかと言いますと、それはあるのです。それは、破産の「免責」という制度です。  破産法による免責とは、誠実な破産者に対する特典として、破産手続きによる配当によって破産財産から弁済することができなかった債務につき、特定のものを除いて、裁判によって、破産者の責任を免除することを言います。前述しましたように、法人の破産の場合には、破産によって法人が解散して借金がなくなってしまうのに、個人の場合には、いつまでも借金地獄からぬけだせないとすると不公平です。私は、個人破産の場合は、原則として免責を認めるという態度が正しいと思います。破産して立ち直ろうとする破産者に、法は援助の手を差しのべるべきです。  しかし、不誠実であったり、悪いことをした破産者にまで免責を認めてしまうと、債権者にとっては踏んだり蹴ったりで気の毒です。  そこで、破産法は、366条の9に、免責不許可の事由を列挙しています。これに該当する場合には、免責は認められないのです。以下、免責不許可事由を説明します。  第1は、破産者が破産財産に属する財産を隠したりした場合です。破産になると全財産を投げ出さなければなりません。それを、債権者に取られないように財産を隠したり親戚に贈与してしまうと免責されません。  第2は、破産財産に属する財産に虚偽の抵当権を設定した場合です。  第3は、商業帳簿を作らなかったり、これを隠したりした場合です。  第4は、破産裁判所の書記官が閉鎖した帳簿に、変更を加えたりした場合です。  第5は、浪費または賭博をして、著しく財産を減少し、または過大の債務を負ったばあいです。分不相応な支出をしていた破産者には免責は認められないのです。競輪、競馬など賭博をして財産を著しく減らした人も免責は認められません。  第6は、破産者が、破産宣告を遅延させる目的をもって、非常に高利の借金をしたとか、低価格の商品を著しく高額で購入した場合です。  第7は、破産に際して、債務者が、特定の債権者に対してだけ抵当権をつけたり、弁済したりした場合です。  第8は、破産者が、裁判所の許可を得ないで居住地を離れた場合です。  第9は、破産者が、破産管財人などに虚偽の説明をした場合です。  第10は、破産者が、破産宣告1年以内に、破産の原因があるのに、詐術をもちいて財産を取得したばあいです。刑事上、取り込み詐欺に当たるような場合です。  第11は、破産者が虚偽の債権者名簿を提出したり、財産状態につき虚偽の陳述をした場合です。  第12は、破産者が、免責の申立前10年内に免責を得たことがある場合です。何度も免責は認められません。


 民事裁判をおこしたいのですが、弁護士を依頼するお金がありません。裁判は絶対勝つ自信がありますが、何か公的な援助をしてくれる機関はないものでしょうか。刑事事件では国選弁護という制度があると聞いていますが、民事事件ではこのような制度はないのですか。



 刑事事件の国選弁護という制度と同様なものとして、民事事件や行政事件につき、経済的理由で裁判費用の用意が出来ない人のために、裁判費用の立替えを行うなどの事業をする「法律扶助制度」があります。
 この事業を行っているのは、財団法人法律扶助協会といって、本部は日本弁護士連合会会館内にあります。各支部は殆ど各弁護士会に置かれています。石川県支部は、金沢市丸の内の金沢弁護士会にあります。
 法律扶助を受けるには、各支部に法律扶助の申込みをします。すると、法律扶助協会で弁護士に後に述べる法律扶助を受けるための要件が整っているかを調査させます。その調査結果に基づき法律扶助審査委員会で審査して扶助決定をすることになっています。
 法律扶助を受けるための要件は、第1に、資力の乏しいことが必要です。弁護士費用を十分に支払う資力のある人はこの制度を利用できません。どの程度で資力が乏しいかは一応基準がありますが、生活保護を受けている人は、この要件を充たすことは問題がありません。生活保護を受けていなくても、現在は3人家族で、手取りの月収が26万円以下の程度だとこの要件を充たします。
 第2に、勝訴の見込みがあることが必要です。弁護士を頼むことにより、利益があると見込まれる場合には、扶助を受けることができます。
 法律扶助の制度は訴訟費用や弁護士費用を立替えるものであって、後に返還しなければなりません。裁判で勝訴して、その金で立替金を返還してもらうことを予定しています。裁判をしたいがお金がない。しかし、裁判では勝てばお金が入ってくるので、その時弁護士費用等を支払いますという人に援助をする制度が法律扶助なのです。
 立替えられる費用の種類及び金額は、以下の表のとおりです。

  訴訟費用 着手金 報酬金 保証金
訴訟 2万5千円〜3万5千円 6万〜18万円 経済的利益の10% 支払保証又は現金供託
調停・交渉 2万円 6万〜8万円

 法律扶助審査委員会で以上の要件を検討して扶助決定がなされると、扶助協会では弁護士を紹介してくれますので、その弁護士が申込人の代理人となって事件の解決をはかります。
 そこで、扶助を受けた人がしなければならないことは、立替を受けた費用を月々分割して返済したり、事件が解決して利益を受けた時には、その金で弁護士に報酬金を支払うことが必要です。事件が解決した時点で、立替金が残っている場合には、扶助協会に相談してもらえば、分割支払などで返済方法を定めてくれます。
 なお、扶助を受けた人が事件の解決後3年を経過し、生活保護を受けている時などには、立替金の返還免除をうけることもできます。
 法律扶助事業の財源は、国や地方公共団体、弁護士会からの補助金が主なものですが、資金不足を来しております。刑事事件での贖罪の意を表すための寄付や、一般の寄付など、善意の寄付をお願いしたいところです。高額の寄付者は紺綬褒章の適格者となります。
 最後に、扶助事件は民事・行政事件だけでなく、自己破産申立事件や少年保護事件にも利用されていることを紹介しておきます。