うどん屋を経営していた父が最近亡くなりました。遺産としては、うどん屋の土地と店舗ぐらいしかありません。銀行からうどん屋の店舗購入資金として5,000万円借入して、現在2,000万円の借金が残ってます。父の相続人は、姉、兄と弟の私と妹の4人です。
 兄弟姉妹で話合って、父の手伝いをしていた兄が土地・店舗を相続し、うどん屋を継ぐことにし、その代わり姉と妹と私は、それぞれ100万円ずつもうらうことにして、借金2,000万円は兄が全部責任を持つことになりました。
 兄以外の私たちきょうだいは、後日、銀行から借金の請求をされないでしょうか。


 相続により、父親の積極財産である土地・店舗にかぎらず、消極財産である借金も相続人が承継します。積極財産だけ相続するけれども消極財産は相続しないというような虫のいいことは出来ません。
 ところで、借金を相続する場合、2,000万円という借金は分割できますから(これを可分債務といいます)相続分に応じて当然に分割して相続人に承継されるとするのが判例の立場です。
 従って、お父さんの銀行からの借金2,000万円は、あなた方兄弟姉妹が4分の1ずつ、つまり500万円ずつ相続します。土地・店舗を承継しなかったあなた方も銀行から500万円ずつ請求されたら応じなければなりません。
 それでは、兄弟姉妹で、借金は兄が全責任をもつと話合ったことは、法的に無意味かということではありません。兄が債務を全部引受けて、他のきょうだいは債務を免れるということですから、免責的債務引受契約が成立しています。兄との間では、あなた方は借金を相続しないということは主張できます。
 しかし、あなた方が借金を相続しないということを銀行に主張できるためには、免責的債務引受契約について銀行の承諾(承認)が必要です。うどん屋を兄さんが引継いで、借金2,000万円の担保として充分価値のある土地・店舗も兄さんが相続するのですから、銀行に事情を説明すれば、この承諾を得ることは可能だと思います。銀行が承認したときは、免責的債務引受契約が成立したときには遡ってその効力を生じ、あなた方きょうだいは銀行から借金の請求を受けません。


 夫は最近病死しました。夫は一生サラリーマン生活で特に財産というものはなく、また借金もありませんでした。しかし、亡夫は友人に頼まれて友人の息子さんがX会社に就職するとき、身元保証人になったことがあります。亡夫のした身元保証について、相続人の妻である私や子供達に責任が及ぶものでしょうか。


 あなたの亡くなったご主人は、X会社との間で身元保証契約を締結しているわけですが、これは身元保証人であるご主人がX会社に対し、被保証人である被用者(友人の息子)が使用者(X会社)に与える損害につき、それを賠償することを約束していることになります。この身元保証契約は一般の保証債務と違って、将来負担すべき債務が生ずるか生じないかはわからず、また、どれだけの債務を負担するかもわからないという特質があります。従って、身元保証人の立場を保護する必要があって、「身元保証ニ関スル法律」が制定されています。この法律によりますと、契約期間を定めないときは3年間(ただし、商工業見習者の身元保証は5年間)、期間を定めても5年間を超えることができないことになっています。また、使用者は、つぎのような場合、身元保証人に遅滞なく通知しなければならないことになっています。すなわち、
 1. 被用者に業務上不適任又は不誠実な事跡があって、身元保証人の責任を生ずるおそれがあることを知ったとき。
 2. 被用者の任務又は任地を変更したため、身元保証人の責任を加重し、又は、その監督を困難にさせたとき。
 この通知があったとき、あるいはみずから知ったときは、身元保証人は保証契約を将来に向けて解約することができます。
 あなたのご主人が友人の息子さんの身元保証人になった背後関係は、親しい友人の子供だということで、義理などがあってことわることができなかったのでしょう。友人との特別の信頼関係を通して、その息子さんとの間に信頼関係が生じた、つまり、親しい友人の子供だからX会社に将来損害を与えるようなことはないだろうという信頼をして、身元保証人になられたのだと思われます。
 このような特別の信頼関係を基礎として成り立っている身元保証契約は、被相続人(あなたのご主人)の一身専属的なものですから、被相続人だけが責任を負い相続されません。つまり、相続人であるあなた方は責任を負いません。相続人の責任を拒否した判例があります(大判昭和2・7・4民集6・436、大判昭和12・12・20民集16・2019)。
 しかしながら、あなたのご主人が亡くなる前に友人の息子さんがX会社に既に損害を与えてしまって損害賠償義務を負担している場合には、身元保証人は具体的に損害賠償義務を負担しているのですからご主人が死亡したら相続人であるあなた方はその債務を相続せざるを得ません。これは相続の一般原則です。前述の判例の事例と異なった事案つき、身元保証人の相続義務が相続されるとした判例もありますので、現在、まだ身元保証人の責任が具体的に発生していない場合には、前述したように身元保証人の責任は不安定なものですから、契約期間を調べて期間がすぎたら更新しないようにするとか、あるいは被用者の任務や任地が変更していないか、業務上不適任、又は、不誠実なことがないか等調査し、身元保証人契約を解約してあなた方に責任が及ばない手段をとられることをおすすめします。


   私はXに500万円を貸していましたが、Xは先月死亡しました。Xの遺産は2,000万円で、私の貸金は十分弁済してもらえると思ってました。
 ところが、Xの相続人である息子さん(Y)は財産が200万円しかなく、2,000万円の債務を負っています。YがXを相続してしまうと、私のXに対する貸金500万円は完全な弁済が得られないおそれがあります。
 何か法的な救済手段はないでしょうか。


 あなたはXに対して、500万円の債権を有していましたので、Xの積極財産は2,000万円から十分に弁済を受けることができました。ところが、Xが死亡しYが相続しますと、YはXの積極財産2,000万円と消極財産500万円を相続しますが、相続により相続財産と相続人の固有財産とが混合し、積極財産が合計2,200万円に対して、消極財産(債務)が合計2,500万円となります。この混合したもののなかから、相続債権者と相続人の債権者が平等に弁済を受けることになります。このように混合しますと相続債権者であるあなたは、完全な弁済が受けられなくなって不利益を受けることになってしまいます。
 そこで、あなたの蒙る不利益を救済する手段として、あなたは家庭裁判所へ財産分離の請求をする事ができます。財産分離とは、相続の開始に際して、債権者間の公平をはかるため、相続財産と相続人の固有の財産とを分離させて、相続財産について清算を行う手段です。
 本問いのように、相続人の固有財産が債務超過の状態にあり、相続債権者が不利益を受けるおそれがある場合に利用される制度を第1種の財産分離制度といいます。(民法941条乃至949条)。第1種の財産分離を請求できるのは、相続債権者・受遺者です。請求期間は、原則として相続開始の時から3カ月以内です。請求権者は家庭裁判所に申立て、審判を受けることになっています。
 財産分離の審判が確定しますと、相続財産と相続人の固有財産とは分離され、それぞれ独立した財産群が存在するものとして扱われます。相続債権者は、相続財産について相続人の債権者に優先して弁済を受けることができます(民法942条)。あなたが、この財産分離を請求した場合、相続財産2,000万円に対し、相続人の債権者に優先して弁済を受けることができますので、500万円の貸金を完全に弁済を受けることができるのです。
 ただし、財産分離は、不動産については、その登記をしなければ、これを第三者に対抗することができません(民法945条)ので、財産分離の請求権者であるあなたが、この登記をすることを忘れないで下さい。財産分離の請求があれば、相続人は相続財産を管理する義務を負い、相続財産について処分権を失い、相続人の処分行為は無効と解されていますが、財産分離がなされたことを知らないで、相続人の処分行為の相手方となった第三者が有効に権利を所得することができなくなってしまうと、第三者の保護が否定され、取引の安全を害することになってしまうからです。


 私はXに500万円を貸していますがXの父親Yは先月死亡し、Xのみが相続人です。Yの遺産は200万円で2,000万円の債務があるとのことです。Xは2,000万円の財産を持ち、私以外には債務がありません。XYを相続してしまうと、私のXに対する貸金500万円は完全な弁済を得られないおそれがあります。
 何か法的な救済手段はないでしょうか。


 あなたはXに対して、500万円の債権を有していましたので、Xの積極財産2,000万円から十分に弁済を受けることができました。ところが、父親Yが死亡し、Xが限定承認をしないで相続しますと、XはYの積極財産200万円と消極財産2,000万円を相続しますが、相続により相続財産と相続人の固有財産が混合し、積極財産が合計2,200万円に対して、消極財産(債務)が合計2,500万円となります。この混合したもののなかから、相続債権者と相続人の債権者が平等に弁済を受けることになります。このように混合すると相続人の債権者であるあなたは、完全な弁済がうけられなくなって不利益を受けることになります。
 そこで、あなたの蒙る不利益を救済する手段として、あなたは家庭裁判所へ財産分離の請求をすることができます。
 本問は、前問とは逆に、相続財産が債務超過にあり、相続人が限定承認すればよいのですが、相続人が限定承認をしないときには、相続人の債権者が不利益を受けるおそれがある場合に利用される制度で、第2種の財産分離制度といいます(民法950条)。
 第2種の財産分離を請求できるのは、相続人の債権者です。相続開始のときの債権者に限らず、相続開始後の債権者も含まれます。
 請求期間は、相続人が限定承認をすることができる期間、または相続財産が相続人の固有資産と混合しない間です。請求者は家庭裁判所に申立て、審判を受けることになっており、第2種財産分離の手続きは第1種財産分離の手続きとほとんど同じです。
 財産分離の審判が確定しますと、相続財産と相続人の固有財産とは分離され、相続財産について清算が開始します。第2種財産分離は、実質的にはあたかも相続人の債権者が相続人に代わって限定承認をするのと同様の意義を有しますので、その効果は限定承認に関する規定(民法925条、927条乃934条)が準用されます。相続債権、受遺者は、相続財産をもって全部の弁済を受けることができなかった場合に限り、相続人の固有財産について、その権利を行うことができますが、相続人の固有財産については相続人の債権者が優先して弁済を受けることができます。
 あなたは、相続人Xの固有財産2000万円について相続債権者に優先して弁済を受けることができますので、500万円の貸金を完全に弁済を受けることができるのです。


 .兄が事業に失敗し、多額の借金を抱えたまま死亡しました。兄にはその妻と幼い子供が2人いましたが、きょうだいは弟の私1人です。
 債権者は、兄の妻やその子供らが仕事をしていなくて収入がないことから、弟の私に兄の借金を支払えと押しかけてきました。兄は事業に失敗したとき、自宅不動産を売り払って財産は何もありません。
 残された兄嫁や私らはどうしたらよいでしょうか。


 兄さんがなくなられたのですから、第1順位の相続人は妻と子供2人です。  これらの相続人が、兄の多額の借金を相続しますと、きわめて酷な結果を生じます。そこで、このような結果から相続人を保護するために、法は相続放棄を認めています。
 相続放棄の方式は自己のために相続開始があったことを知ったときから、3か月以内にその旨を家庭裁判所に申述しなければなりません(民法915条、938条)。この方式によらない相続放棄は、法律上効力を生じませんのでご注意下さい。家庭裁判所の窓口には印刷された相続放棄申述の申立書用紙が備えつけられていますから、これを利用して下さい。
 家庭裁判所は、相続放棄の申述申立書が提出されますと、この申述申立を審査して受理すべきか否かを決めます。申述書が形式的要件を具備しているかどうかを審査するだけでなく、少なくとも申述が本人の真意にもとづくものであるかどうかを審査します。
 家庭裁判所が相続放棄の申述を受理しますと、相続放棄の効力が生じます。この受理がなされた場合には、家庭裁判所は、放棄者に対して相続放棄申述の受理証明書を交付します。
 兄嫁や子供らの相続放棄の申述が受理されますと、その人らは、兄さんの相続については、はじめから相続人でなかったことになり(民法939条)、借金をうけつがないことになります。
 次に、兄嫁や子供らが相続放棄しますと、兄の相続人は第2順位の両親となり、その両親が亡くなられている場合、第3順位の弟であるあなたが相続人となります。したがって、その場合あなたも兄嫁らと同様に家庭裁判所へ相続放棄申述の申立書を提出する必要があります。第1順位の相続人の相続放棄の申述が受理されたので安心して、第2順位以下の相続人らが相続放棄の申述を忘れていたという相談を受けることがありますが、ご注意下さい。