私(甲)には戸籍上3人の子供がいます。そのうち長男Aは、離婚した妻(乙)と他の男との間に生まれた子供なのです。妻が浮気をしていたことが判って、私達は協議離婚をしました。しかし、長男の戸籍をそのままにして30年になります。
 私はもう年老いたので、遺言でも書いて、後妻(丙)とその間に出来た子供2人B、Cに遺産を残して後日紛争が起きないようにしたいのですがどうしたらよいでしょうか。


 実子には嫡出子と非嫡出子の2種類があります。
 嫡出子とは、婚姻関係にある父母から生まれた子供をいいます。非嫡出子とは婚姻関係にない父母から生まれた子供をいいます。
 ところで、民法は妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定します。また、婚姻成立の日から200日後又は婚姻解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定しています(民法772条)。
 そこで、あなたの長男Aは離婚した妻乙との間の子供として届出してあること、乙と離婚した後も長年戸籍をそのままにしてあることなどから推測しますと、Aの父親があなた(甲)であるとの推定をうける事案であったのでしょう。
 そうしますと、Aはあなた(甲)の嫡出子と推定をうけます。
 しかし、あなたは、Aが妻乙と他の男性との間に生まれた子であって、自分の子供ではないといって嫡出子の推定を覆して争うことが出来ます。これを嫡出否認権といいます。
 嫡出否認権を行使する方法は、訴えによらなければなりません(民法775条)。これを嫡出否認の訴といいます。父子関係の存否という重要な問題ですので、慎重にする必要があるからです。
 嫡出否認の訴は、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければなりません(民法777条)。夫がその子の嫡出性を否認するかしないのかあまり熟慮期間が長いと、子にとっては身分関係の不安定な状態が続くので不利となりますから、嫡出否認の訴の提起期間を1年に制限したのです。
 さて、あなた(甲)は、嫡出否認の訴を提起してAさんが自分の子供ではないと争うことが出来たのですが、30年も戸籍をそのままにしていたというのですから、嫡出否認権の行使期間を経過しています。従って、あなたはAに対して、嫡出否認の訴を提起できません。さらに、このような場合、あなたはAとの親子関係付存在確認の訴を提起できないとするのが判例の立場です。つまり、あなたは裁判では父子関係を否定して争うことは出来ません。
 そこで、あなたは、後妻丙とその間に出来た子供B、Cに遺産を残しておきたいというお気持ちならば、遺言でそのように財産の処分をしておくとよいでしょう。但し、Aはあなたの嫡出子ですから相続権があり、遺留分をもっていますので、遺言ではAの遺留分を侵害しないようにしなければなりません。


 父が最近亡くなり、初七日がすぎ、父の金庫を開けたところ、「遺言書」と書いた封筒がみつかりました。そこで、長男の私は家庭裁判所へ遺言書の検認の申立をし、家庭裁判所で遺言書を開封しましたところ、遺言の中に、父は母以外の女性との間の子供である甲を認知すると書いてありました。私や母は、ただ驚くばかりで、父の遺言を信じられません。父の相続人は母と私の2人と思っていますが、甲にも相続権があるのでしょうか。あるとしたら、私と同じ権利ですか。


 甲は婚姻関係のない父母から生まれた子ですから非嫡出子です。非嫡出子に対して認知をすることによって父と子との間に法律上の父子関係が生じます(民法779条)。
 認知の方法は、届出によって成立する生前認知と、遺言によって成立する遺言認知とがあります。遺言認知の場合には、遺言執行者がその就職の日から10日以内に、認知に関する遺言の謄本を添付し、認知の届出をすることになっています(戸籍法64条)。その効力は遺言者の死亡のときに生じます。
 そこで、あなたのお父さんの遺言書には、認知すると書いてあったのですから、遺言認知によってお父さんと甲との間に法律上の父子関係が生じます。従って、お父さんの法定相続人は配偶者のお母さんと子供であるあなたと甲の3人となります。
 次に法定相続分ですが、子と配偶者が相続人である場合には、子の相続分も配偶者の相続分も、いずれも2分の1です。子供に嫡出子と非嫡出子とがいる場合には、非嫡出子の相続分は、嫡出子の相続分の2分の1とされています(民法900条)。
 従って、配偶者のお母さんは2分の1、子全体の相続分2分の1のうち嫡出子のあなたは3分の2、非嫡出子の甲は3分の1の割合で遺産を分けることになります。


 わたしと同居していた父が死亡し、相続人は私と弟の2人です。父の遺言書を弟が保管していたというので家庭裁判所で開封しましたところ、弟に全財産を相続させると書いてありました。
 しかし、遺言の内容も封筒に書かれた「遺言書」という文字も父の字ではありません。弟は裁判官に父の字だと答えていましたが、私はこれを否定しました。私とは波風立てず仲良く暮らしていた父が弟にだけ相続させるという遺言を書く筈がありませんし、私と一緒に暮らしていた父が遺言書を書いたことを私に黙っているとは思われません。私としては、この遺言書にどう対処したらよいのでしょうか。


 遺言書を検認した際、遺言の内容が被相続人の字であるか否かを立会った相続人が述べます。しかし、この検認をうけたからといって、遺言が有効になるものではありません。
 遺言書に書いてある文字が被相続人の書いたものでない場合には、誰かが偽造した遺言書となります。自筆証書遺言の方式の場合、被相続人は遺言書全文、日附及び氏名を自書しなければなりません(民法968条)。従って、あなたのお父さんの遺言書が、お父さんが書いたものでなければ、その遺言は無効となります。
 ところが、相続人間で弟さんはお父さんの文字で遺言は有効であると主張する場合には、あなたは弟さんを相手方として遺言無効確認の訴を提起して、裁判所の判断を求めるのがよいと思います。
 裁判では、遺言書の筆跡鑑定をする必要が生じますが、生前お父さんが書いた書類等、筆跡対象文書を沢山集めておくことが大切です。
 筆跡鑑定の結果、お父さんの遺言書が偽造されたことが判明し、さらに、弟さんが偽造したとなった場合には、遺言書を偽造した弟さんは相続欠格者となって相続人となることができなくなります(民法891条5号)ので、あなた1人が相続人となり、全遺産を相続することができます。


 夫は最近亡くなりました。相続人は、後妻の私と先妻の子供の2人です。夫は「自分が死んだならば、妻に土地・建物全部を与える」との書類を書いてくれ、私もその書類に署名捺印しました。ところが、夫の死亡後、先妻の子供に全財産を与えるという遺言書が出てきました。その遺言書は私に書いてくれた書類より後に書かれたものでした。遺産の大部分が土地と建物です。この場合、私は土地・建物を自分のものに出来るのでしょうか。


 ご主人とあなたとの間には、ご主人の死亡を条件として効力を生ずる生存中の贈与契約が成立しているものと思われます。このような契約を死因贈与といいます。死因贈与により、相続人に帰属する財産が減少したりなくなったりします。
 死因贈与の場合、ご主人の死亡と同時に土地・建物の所有権があなたに移ります。従って、ご主人が死亡した時点で土地・建物はご主人の遺産ではなくなっていますので、先妻の子供に全財産を与えるという遺言をしても、土地・建物以外の遺産のみを子供が相続するにすぎません。あなたは、土地・建物の所有権を取得することができるのです。但し、先妻の子供には、ご主人の財産の2分の1の2分の1、つまり4分の1の遺留分がありますので、あなたが取得した土地・建物が全遺産の4分の1を越えている場合には、遺留分を侵害する可能性はあります。


 私は、長年付添って甲さんのお世話をしてきました。甲さんは、私の気持ちをくんでくれて、財産を全部私にあげるから遺言を書くのに公証人役場に付いて来るように言われました。それで、公証人役場で、私と私の息子(成人)の2人が証人として立会って秘密証書遺言に証人として署名捺印しました。この遺言は法的に問題ありませんか。


 秘密証書遺言には、証人2人以上の立会が必要です(民法970条1項3号)。証人の立会は、遺言者に人違いのないこと、精神状態の確かなこと、作られた遺言が真実に成立したものであることを証明するために必要とされます。従って、誰でも証人となれるものではありません。
 民法974条では、遺言証人の欠格事由を定めています。すなわち、@未成年者、A禁治産者及び準禁治産者、B推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系血族、C公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び雇人です。
 ところで、甲さんの遺言内容は、あなたに財産全部を遺贈するということですから、あなたは「受遺者」に該当します。また、あなたの息子さんは成人であっても受遺者であるあなたの「直系血族」に該当します。
 従って、あなたとあなたの息子さんは、いずれも証人にはなれません。証人欠格者のあなた方が証人として立会い遺言書に署名捺印したとしても、この遺言は無効です。


 夫が死亡し、相続人は配偶者の私と中学3年の長男と小学6年の長女の3人です。私は子供らの親権者ですので、子供らを代理して、夫の遺産全部を私名義にしてもかまわないでしょうか。


 通常、未成年の子供らが法律行為をする場合、親権者であり法定代理人であるあなたが同意又は代理します(民法4条1項)。  しかし、遺産分割協議や相続放棄のようにあなたと子供らの間で利益が相反する行為については、家庭裁判所で子供らのために特別代理人を選任してもらう必要があります(民法826条)。あなたが子供らを代理して、子供らの相続を放棄したり、子供らに不利益な遺産分割協議をしますと、子供らにとって気の毒な結果になるからです。判例は、親権者が子供らを代理して遺産分割協議をする場合、仮に親権者が子供らのためを思ってしたことであったり、協議の結果が子供らに不利益でないとしても、利益相反行為にあたるとしています。  従って、あなたは子供らを代理してご主人の遺産全部をあなた名義にすることは出来ません。特別代理人を選任せずにした行為は無権代理行為として無効となります。  特別代理人が選任されたら、あなたと特別代理人との間で遺産分割協議をして、その結果ご主人の遺産全部をあなた名義にすることは可能です。


 私は不動産を3筆(A、B、C)所有しています。私には3人の息子がいますので、長男には不動産A、二男には不動産B、三男には不動産Cをそれぞれ相続させるとの遺言を書きました。しかし、遺言を書いた後、事業資金に不動産Cを売らざるを得なくなりました。一度遺言をしていますので、不動産Cを売ることが出来なくなるのでしょうか。もし売ってしまうと、三男に相続させる財産がなくなりかわいそうだとも思いますが、どうしたらよいのですか。


 遺言をした時と遺言が効力を生ずる時(遺言者が死亡した時)との間には、多かれ少なかれ時間の経過がありますので、その間に事情の変更することはあり得ます。このような場合、最初の意思表示に拘束されることはあまりにも遺言者にとって酷であります。したがって、法律は遺言者は死亡するまで自由にその意思を変更して遺言を撤回することを認めています(民法1022条)。遺言は遺言者の最終意思を尊重するのです。  従って、あなたは不動産Cを三男に相続させると遺言をしても、その後事情が変更してこれを売らざるを得なくなったのであれば、遺言を撤回してこれを自由に売ることが出来ます。  遺言撤回の方式は必ず「遺言の方式」によらなければなりません。  遺言撤回の範囲ですが、必ずしも全部を撤回する必要はありません。その一部を撤回することも出来ます。そこであなたは「遺言の方式」によって不動産Cを三男に相続させるとした遺言部分だけを撤回し、長男、二男に不動産A、Bをそれぞれ相続させるとの遺言部分をそのままにしておくことは出来ます。あるいはまたそれでは三男がかわいそうだと思われるならば、前の遺言を「遺言の方式」で全部撤回して、例えば不動産A、Bを3人に均等に相続させるとの新しい遺言をすることも出来ます。