私は養子です。父の弟夫婦に子供がいなかったので、私は生まれるとすぐにそこに養子に出されたそうです。養父は花屋をしており、ゆくゆくは私に跡を次がせると言ってくれています。
 ところで、最近実父が死亡しました。実父の相続について、四人の兄弟姉妹がいるのですが、長兄から「おまえは養子にいったのだから父親の相続権はない」「養父の継続と実父の相続との二重になっては他の継続人との関係で不公平だ。」と言われました。長兄の言い分が正しいのでしょうか。


 養子縁組をすると、あなたと養父のと間に嫡出親子関係が生じます。したがって、あなたは、養父の相続人になれます。しかし、養子になったからといって実父との親子関係は切れません。それで、実父が亡くなられたそうですが、あなたは、実子として実父の相続人にもなれます。養父との相続と実父の相続との二重に認めるのは、不公平だと長兄が主張しているそうですが、法律でそれを認めていますので、あなたに不当な点はありません。 
 以上が、これまでの養子縁組の場合の結論です。
 とことが、昭和62年に民法が改正されまして、特別養子制度を採用しました。これによると、結論がちがってきます。新しい法律ですので、特別養子制度の特色を説明しておきます。
 第一点は、特別養子制度の親子関係が、家庭裁判所の審判によってのみ成立します。これに対し、普通養子制度の親子関係は、当事者の合意と届け出でによって成立します。
 第二点は、特別養子縁組が成立すると、実方の父母その他の親族との間の法律上の親族関係が終了します。そして、養親のみが養子の唯一の父母となるわけです。これに対し、普通養子制度では、養子縁組をしても、養子の実方の父母その他の親族との間の親族関係は、そのまま存続し、お互いに扶養や相続の関係が残ります。
 第三は点は、特別養子の戸籍については、実の嫡出子とほぼ同様の記載がなされます。普通養子の戸籍では、父母の欄に実父母・養父母双方の氏名が記載され、養父母との続柄は養子と記載されるなど、養子であることが一目で分かるようになっています。これに対し、特別養子の場合には、養父母のみが法律上の父母であるという趣旨を生かして、父母の欄には、実父母の名前は記載されず、養父母の氏名だけが記載され、続柄欄には「長男・長女」というふうに記載されるなど、ほぼ実の嫡出子と同様の記載がされることになっています。
 第四点は、離縁については、かなり厳しく制限され、家庭裁判所の審判による離縁しか認められていません。また、養親の方から離縁の審判を申し立てることができません。
 以上の特別養子制度の説明でお解りいただけたと思いますが、特別養子だと実父との親子関係はなくなっていますので、実父の相続人にはなれません。養父母を唯一の父母として養父母の相続人となります。


 従兄弟甲は、長年漆器業をして多額の財産を築きました。
 ところが、甲は結婚もせず一人暮らしをしていましたので、私と妻が療養看護の世話をしてきました。これに対し、甲は、生前、不動産など一切の財産を私にあげる(贈与する)といってくれたのですが、まだまだ死ぬなどと思いもしなかったので遺言をしないでいるうちに先日ぽっくり死亡しました。甲の両親は随分昔に死亡し、兄弟姉妹もいません。甲の財産の相続は一体どうなるのでしょうか。


 民法で法的相続人が定められています。配偶者、子、孫、ひ孫、両親、兄弟姉妹などです。甲さんの場合、結婚をしなかったのですから、配偶者いないし、子、孫、ひ孫も戸籍上いないのでしょう。両親も兄弟姉妹もいないのですから、戸(除)籍謄本などで調査しても法定相続人はいないと思われます。しかし、結婚しなかったからといって子や孫などがいないとは限りません。結婚はしなかったが、ある女性との肉体関係をもって子が生まれていたならば、甲さんとその子との間には事実上血縁関係がありますので、その子は相続人になり得ます。戸籍調査だけでは、相続人がいるのかいないのかはっきりしないのです。このような場合を民法は「相続人の不存在」といっています。
 相続人の不存在の場合、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により相続財産の管理人を選任します。利害管理人とは、被相続人から遺言によって贈与を受け人(受遺者)、被相続人に対して債権をもっていた人(相続債権者)、生前贈与を受けた人、特別縁故者などを言います。あなたは、甲さんから生前贈与を受けていたののですから、利害関係人に該当します。
 相続財産管理人は、一切の相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申し出をすべき旨を官報に公告し、その後、家庭裁判所は、相続人がいるなら一定の期間(少なくとも6ヶ月)以内にその権利を主張するように官報に公告をします。それでも相続権を主張するものが現れないと、相続人不存在が確定します。
 その確定の効果は、次の通りです。
1. 相続人や管理人に知られなかった相続債権者、受遺者は、もはやその権利を行使できません。
2. 確定後3ヶ月以内に、特別縁故者から請求があると、家庭裁判所は、清算後残った相続財産の一部又は全部をぞの者に与えることができます。特別縁故者とは、被相続人と生計を同じくしていた者(内縁の夫・妻・事実上の養子、親族のみならず、生計を同じくしていれば他人も含む。)、被相続人の療養看護に努めた者(親戚や知人のほか、とくに献身的に看護した家政婦などを含む、その他被相続人と特別の縁故があったものをいいます。
3. 特別縁故者にたいする分与がされなかった財産は、国庫に帰属します。  したがってあなたは、利害関係人として家庭裁判所に相談財産管理人の選任を請求し、この管理人を相手にして、被相続人から財産一切の生前贈与を受けたことを理由に裁判をするとよいでしょう。この場合、生前贈与を裏付ける証拠が必要となります。仮に、証拠がない場合には、特別縁故者として、家庭裁判所に、財産の分与を請求できます。何も法的手続きをしないと、甲さんの財産は、国の財産になってしまいます。国庫いってしまう前に、以上の手続きを取って、甲の財産をあなたが取得できるようにして下さい。


 私は知人の紹介で子供二人いる人の後妻になりました。当事長男は中学二年生、長女は小学校五年生で、二人とも小さかったので、私は夫に請われるまま、自分の子供を産まないようにして先妻の子供を一生懸命育てました。夫は仏壇店をしていたのですが、私が嫁いできてから商売が順調となり、借家を買い取り、そこで店を引き続いてやって参りました。ところが、長男が結婚してから、私たちと折り合いが悪くなり、夫と相談のうえ、長男夫婦に近所の家を買ってあげて別居することにしました。その後は、夫は長患の末、亡くなりました。夫の死後、長男が、遺産全部を長男に相続させるとの遺言があるから、私に仏壇店の家から出て行けと言ってきました。仏壇店は夫の名義になっています。私は夫の遺産に対し何の権利もないのでしょうか。夫の死後も私ひとりで仏壇店を経営しているのですが、私は長男の言うとおり、この店から出て行かなければならないのでしょうか。


 あなたが小さい子供のいるところに後妻に入りその子供らを立派に立派に育て上げたこと、結婚をしてから仏壇店を購入し店を順調に発展させてきたこと、長男にはいえを買ってあげていることなどを考慮しますと、果たして夫の遺言は有効なものかどうか疑問となります。しかし、この遺言を無効と断定できませんので、有効なゆいごんとして、あなたの質問にお答えします。
 結論から言いますと、あなたには、遺留分があります。
 遺留分制度は、相続の場合に、被相続人が相続人の為に必ず相続財産の一定部分をなんらかの方法で保障する制度です。一方、遺言制度で財産処分の自由を認め、他方、法定相続制度で相続人の生活保障をしています。しかし、被相続人が法定相続を全く無視して財産を処分することがありえますが、遺留分を害しない限度で認めようとするのが、この遺留分制度です。したがって、遺留分制度は、法定相続制度と遺言制度を調整する役割をもっています。民法第1028条は、配偶者のあなたと子供二人の相続人の場合には被相続人の財産の2分の1が遺留分である、と規定しています。これを配偶者と、子供に法定相続分の割合で配分します。したがって、配偶者のあなたは4分の1(1/2×1/2)、長男・長女は、各8分の1(1/2×1/2×1/2)がそれぞれの遺留分です。
 あなたは、夫が長男に一切の財産を相続させるとの遺言をしたことにより、4分の1の遺留分が侵害されていますので、長男を相手にして遺留分減殺請求権を行使する事ができます。減殺請求の意志表示の方法は訴えの形式による必要はありません。裁判外の意志表示の行使でもよく、その方法について特別の定めはありません。ただ、遺留分減殺請求をしたことの立証を容易にするため、内容証明郵便にしておくのがよいでしょう
 ここで注意しておかねばならないのは、減殺請求の短期消滅時効です。すなわち、減殺請求権は遺留分権利者が相続開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年を経過すれば消滅します。(民法1042条全段}。なお、相続開始から10年を経過した場合は、遺留分を侵害し、減殺できることを知らなくても完全に減殺請求権は消滅します。(民法1042条後段)。
 あなたが、以上の手続きで遺分減殺請求を。しますと、遺産である仏壇店の不動産について4分の1の割合で相続を主張する事ができます。同様長女も8分の1の割合で相続を主張できます。したがって、長男と長女とあなたの三人で共同相続している遺産をどのように分割するのか遺産分割の問題に帰着します。三人で話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所へ遺産分割の調停申立てをしてください。長男が別居して家をもらっていることや、あなたが夫の死後の死後も仏壇店を経営していることなどを考慮して、あなたが仏壇店の家を出て行かなくてもよい方法で調停が進むと思われます。


 最近父が亡くなりました。死後父の遺言が見つかりました。直ちに、家庭裁判所に遺言書の検認の手続きをし、裁判所で開封したところ、全財産を長男の私に相続させるとなっていました。父の財産としては、不動産、銀行の預金・出資証券、上場株式・父が経営していた会社の株式、電話入権、家財道具一式があります。これら遺産産を私の名義にするにはどうしたらよいのでしょうか。


 通常、遺言者が遺言の中で遺言執行者を規定しています。日頃から交際している弁護士を遺言執行者に規定することは多くなってきています。遺言執行者がいないときは、利害関係人の申し立てにより家庭裁判所が遺言執行者を選任する事ができます。 遺言執行者は、就任後直ちに職務をを行わなければならないこととなっています。(民法1007条)。まず、遺言者の有効性を確認し、財産目録を調整し、それを相続人に交付しなければなりません。
 その後遺言の具体的な執行手続きに入ります。
(1)不動産
 不動産を長男のあなたに相続させる遺言があるのですから、遺言者の死亡と同時に相続人間の遺言分割協議を必要とせずに、この不動産はあなたに帰属します。したがって、不動産の相続を原因とする所有権移転登記は、あなたが単独登記申請をできます。不動産登記簿に、父からあなたに相続を原因とした所有移転登記が記載されます。
(2)預金債権
預金の払戻し請求をする場合、銀行によって取扱い方が異なるようです。銀行によって、相続関係届出書に相続人全員の記名捺印をさせ、全員の印鑑証明を添付するよう要求することがあります。しかし、相続人間で判子を押したくないという人がいると払い戻しを受けれなくなってしまいます。私の経験では、遺言執行者が選任されていると、遺言執行者の名前で払戻しを受けることでスムーズに執行できました。遺言書、戸(除)籍謄本、遺言執行者の印鑑証明書を添付しました。この場合、相続人だれ一人の記名捺印も必要がなかったのです。
(3)出資証券
 信用金庫などに遺言者が出資をしており出資証券をもっていることがあります。この場合、預金債権と同様の手続きで証券の名義を変更します。なお、出資証券を金に換えたい場合は、その旨銀行に申しでれば、銀行のほうで新しい出資者を探してくれ、その人からの出資金をあなたに渡してくれます。これは、出資証券の譲渡ですから譲受人が現れるまで時間がかかります。
(4)株式
 上場株式は記名株式ですから、相続人は、株主としての地位を会社に対して主張するには、株主名簿の書換えをしてもらわなけなりません。株主名簿の書換えのためには、会社又は名義書換代理人たる銀行あるいは証券会社に株券を提示すると共に、「株主名義書換請請求書」に所定事項を記入し、これに印鑑証明を添付して交付します。
 もっとも、株主取得が相続であることで、預金債権の項で説明した添付書類が必要とされることがあります。
 同族会社で、かつ株券を発行していない会社の場合には、会社に備え付けの株主名簿の書き換えをしておけば足りるでしょう。
(5)電話加入権
 NTTなどに電話加入権譲渡承認請求をします。
(6)動産
 家財道具など一式を遺言執行者は、あなたに引き渡すことで執行となります。