わたしの兄は、昭和10年個人でスーパーを始め、昭和25年株式会社組織にして代表取締役社長をしておりましたが、平成3年7月3日病死しました。兄と一緒に生活しておりましたのは、私達の母と兄嫁とその長男夫婦とその子供2人でした。兄の子供は、一緒に生活している長男のほか他家に嫁いだ娘と他家に養子にいった二男がおります。私達兄弟姉妹は、兄が長男で弟の私と妹の3人で、これまで3人が力を合わせて会社を大きくしてきました。兄が死亡し相続について、私達兄弟姉妹は何の権利もないのでしょうか。


まず、被相続人(亡くなられた貴方の兄)の配偶者、つまり兄嫁は、常に相続人となります。(民法第890条)。明治民法の相続制度は家督相続と遺産相続の2つからなり、家督相続においては、家の制度の要請から長男子の独占相続が基本をなしてましたし、遺産相続においては直系卑属が基本的な相続人で、いずれも配偶者が相続人となることはきわめて稀なことでした。しかし、昭和22年の民法改正において、配偶者の相続権が確定し、配偶者の相続法上の地位が大きく向上しました。  次に、被相続人の子は、すべて第1順位の血族相続人となります(民法第887条)。従って、貴方の兄の3人の子供が相続人です。子であれば、年令、性別、未既婚の区別、氏及び戸籍の異同、共同生活の有無、親権の有無、国籍の有無などはすべて相続順位には影響をおよぼしません。他家に嫁いだ娘さんも、養子にいった息子さんも相続人であります。  次に、直系尊属、例えば父母、祖父母、曾祖父母などにこれに属しますが、この相続はどうなるのか説明します。本件の場合、被相続人の母がこれにあたります。ところで、民法は、直系尊属は、第2順位の相続人と定めています(民法第889条)。直系尊属が相続人となることができるのは、第1順位の相続人である子が存在しないとき、または、これらの者が存在していても相続欠格(民法第891条)、相続人の廃除(民法第892条乃至895条)によって相続権を失っているときです。これらの者が全員相続放棄をしたときにも同様です。  さらに、兄弟姉妹は、第3順位の相続人です。兄弟姉妹が相続人となることができるのは、直系卑属及び直系尊属がすべて存在しない場合などです。  以上まとめますと、貴方の兄(被相続人)の相続人は、兄嫁とその子供ら3人となり、その相続分は兄嫁が2分の1、その子供らには各6分の1です。貴方と妹さんが兄の事業に協力したからといって、兄さんの相続については何の権利もないことになります。


木材業をしていた父が最近死亡しました。母親は数年前に亡くなっています。私達は4人兄弟姉妹ですが、弟は結婚し2人の子供を残し、姉も結婚し3人の子供を残し、2人とも父より先に亡くなっています。妹は他家に嫁いで元気にしております。  このような場合、父の遺産を私と妹の2人だけで相続してよいのでしょうか。


相続人のなるべき者(被代襲者)が、相続開始の時すでに死亡しているときは、その者の子(代襲者)がその者(被代襲者)と同一順位で相続人となりなす。これを代襲相続といいます。父が死亡した場合、その者の子が相続したであろう財産を孫が承継できるとしたのが代襲相続です。代襲相続を生ぜしめる原因は3つに限定されています。相続人となるべき者か、1.相続人開始以前に死亡したとき、2.相続欠格によって相続権を失ったとき、3.相続人の廃除によって相続権を失ったときの3つです。  相続欠格の事由ついては、民法第891条に定められていますが、相続人となるべき者が、被相続人を殺したり被相続人の遺言書を偽造したり等反道徳的行為をした場合に相続資格を奪う制度です。  相続人の廃除は、相続欠格事由ほど重大ではないが軽度の反道徳的行為、例えば、被相続人を虐待したり重大な侮辱をした場合に、被相続人の意思に基づいて相続資格を奪う制度です。  代襲相続の効果は、第1に、代襲者が被代襲者の順位において被相続人を相続します。順位が繰上げられるのです。第2に、代襲者が被代襲者の受けるべき相続分を受けます。これを株分け相続といいます。  設問にあてはめますと、被相続人(父)が死亡した場合、相続人は、貴方と妹さんが本来の相続をするほかに、弟さんの子供2人と姉さんの子供3人がそれぞれ代襲相続し、全員第1順位の相続人となります。貴方と妹さんの2人だけが相続人ではないのです。  そして、代襲相続人は、被代襲者の受けるべき相続分を受けるので、弟さんの受ける相続分をその子供2人で分け、姉さんのうける相続分をその子供3人で分けることになります。従って、その相続分は、貴女と妹さんが各4分の1、弟さんの子供らは各8分の1、妹さんの子供らは12分の1となります。  なお、民法は再代襲相続を認め、被相続人の孫に代襲原因が発生したときは、孫の子すなわち曽孫が代襲相続し、曽孫以下の直系卑属についても同様です。また、兄弟姉妹にも代襲相続が認められ、すなわち、兄弟姉妹が相続開始以前に死亡し、または相続欠格、相続人の廃除によって相続権を失ったときは、その者の子すなわち甥姪が相続できます。(民法889条2項)。


私は、主人と義父の3人でお菓子屋を営んでおりました。ところが、先日主人と義父の2人が軽自動車で菓子の配達に出て大型ダンプカーと衝突し、2人とも即死しました。ところで、葬儀が終わって少し落着きかけた頃、主人の弟は私に「お前は兄の生命保険さえもらえば文句ないだろう。この店はあと俺がうまくやるから実家に帰れ」と一方的にまくし立てました。  なお、私のおなかの中に3ヶ月後に生まれる予定の胎児がいます。私は、義弟のいうように主人の生命保険だけをもらって実家へ帰らねばならないのでしょうか。


貴女のご主人と義父さんが同じ事故で亡くなられた場合、どちらが先に死亡したのが明らかではないと思われます。  お2人のうちどちらかが先に亡くなったかによって、相続人が誰になるか異なります。仮に貴女のご主人が義父さんよりほんの少し遅れて亡くなられた場合には、義父さんの相続人は、貴女のご主人と義弟の2人です。その後、ご主人が亡くなられたのですから、ご主人が義父さんから相続した財産とご主人の遺言を合わせた財産を貴女と胎児が相続します。反対に義父さんがご主人より後に亡くなった場合には、ご主人の遺産を貴女と胎児が相続し、その後、義父さんの相続人は貴女の胎児と義弟の2人です。  このように民法は、胎児は相続については既に生まれたものとみなされ(民法第886条)相続能力を有していますし、胎児に代襲相続を認めています。  ところで、お2人がどちらか先に亡くなられたか立証できないことが多いので、このような場合民法は同時に死亡したものと推定します(民法第32条の2)。同時に死亡したのですから、同時死亡者相互間には相続関係は生じないことになります。従って、義父さんの相続人は、貴女の胎児と義弟です。代襲相続の要件として「相続開始以前」の死亡となっていますので、同時死亡の推定をうけた場合、相続人とするべき子である貴女のご主人は相続しないけれども、胎児(被相続人である義父さんの孫)は代襲相続します。  従って、お2人が同時死亡の推定を受ける場合、義父さんの相続について貴女には相続権はありませんが、貴女の胎児がご主人が本来相続すべき相続分を承継することになりますので、義弟がいうような義父の遺産を義弟が独り占めできるものではありません。胎児の母親として堂々と相続権を主張できます。その相続分は、胎児と義弟は各2分の1です。  なお、ご主人の生命保険は貴女の当然の権利ですので、義弟にとやかく言われる筋合いのものではありません。


私たち夫婦は裸一貫から魚屋をはじめ、商売が順調になってきたのですが、子供が産まれない為、遠縁の10歳の男の子を養子にもらいました。養子がきてから生活により張り合いが出来、ますます商売を発展させ、養子も成長して私たちと一緒に魚屋を手伝ってくれました。そこで、養子に嫁を迎え、魚屋もゆくゆく養子夫婦に跡をつがせようと思っておりました。ところが、嫁がきてから私たちと養子夫婦との間が主に金銭問題でぎくしゃくし出し、養子夫婦は店の売上金を勝手に使い、私たち夫婦をじゃま扱いするようになりました。  ところで、夫は、養子夫婦とのいざこざで心労がかさなり、最近亡くなってしまいました。すると養子夫婦は私に家から出ていくように言い立て時には暴力まで振るうしまつです。私たち夫婦築いてきた財産は夫が亡くなった現在どうなるのでしょうか。


あなた方夫婦が裸一貫から今日までに相当の財産をつくられたと思います。この財産たとえば不動産が夫名義であったとしても、2人でつくった財産でありますから共有財産と推定してよいでしょう。その持ち分は原則として2分の1です。そうしますと、夫の遺産は総財産の2分の1ですから、これを貴女と養子が相続します。相続分は、配偶者の貴女が2分の1、養子が2分の1です。従って、総財産の4分の3が貴女の財産で養子は、4分の1です。この割合で、家庭裁判所で遺産の分割の調停をしてもらえます。  つぎに、貴女の財産について今後のことを考えて、貴女と養子との間の養子縁組解消を考えておかれたらよいと思います。  離縁をしない限り、貴女が亡くなった場合、貴女の財産は養子がすべて相続してしまうからです、離縁の訴えを起こす前に、まず家庭裁判所に調停の申立てをしなければなりません。これを調停前置主義といいます。  調停で離縁の合意ができない場合には、家庭裁判所は調停にかわる裁判をすることができますが、この裁判は養親または養子から異議の申立があるとその効力を失うことになっています。異議の申立がなければ審判は確定して2週間後離縁の効果が発生します。調停が成立するか、審判が確定するかによって離縁をすることができない場合には、離縁の訴えを地方裁判所に起こすことになります。この場合には離縁原因を必要とします。(民法第814条)すなわち、1.養親が養子から、あるいは、養子が養親から悪意で遺棄されとき、2.養子の生死が3年以上明らかでないとき、3.その他縁組みを継続しがたい重大な事由があるとき、でなければ、離縁の訴を起こすことはできません。貴女の場合には、夫の生前中から養子との間にトラブルがあったこと、夫死後ますますトラブルが拡大し、養子から暴力を振るわれていること等を考えますと、縁組みを継続しがたい重大な事由に該当すると思われますので、離縁が裁判で認められるでしょう。  離縁については、所定の手続きをふむ必要がありますので、前述した夫の遺産について家庭裁判所で遺産分割の調停をする際、離縁についても協議した方がよいでしょう。


夫と結婚して30年一緒にメッキ工場を経営し、子供たち2人も手伝ってくれるようにまりました。ところが、先日その夫が交通事故で死亡しました。夫には法律上の妻がおり、その人との間に子供が一人おりましたが私と知り合ってから一度も行き来がなかったのです。私と夫の間の子供二人は、夫が認知してくれています。不動産も貯金も亡くなった夫名義になっていますが、この財産の相続はどうなるのでしょうか。


あなたは、長年夫と同居し、子供を育て社会的に夫婦として生活をしてこられましたが、婚姻届けをしてない為法律上の夫婦と認められません。貴女のような立場にある人を内縁の妻といっています。
 内縁関係については、社会的には夫婦として生活しているのですから、できる限り法律上の夫婦関係に準ずるような法律上の効力を与えようとするのが最近の学説や裁判所の考え方です。たとえば、内縁の妻に夫の死亡退職金や労災保険の受給資格が認められます。ところが、内縁の妻は相続については何ら権利はありません。わが民法は、届け出婚主義をとっていることや、相続法は、戸籍から身分関係が分かる者しか認めないという画一性または公示による確実性の要請から、内縁関係について相続権がないのは止むを無を得ないことだと思います。
 そこで、設問では、貴女には夫の財産のについて相続権がないことになります。しかし、貴女と夫がメッキ工場を経営し、共働きで今日の財産を築いたのであれば、たとえ不動産や貯金が夫名義であったとしても、それらは、実質は共有財産であるといえます。そして、その持分は原則として2分の1です。
 従って、夫名義の不動産及び貯金の2分の1が夫の遺産となり、法律上の妻とその人との間の子供と、貴女との夫の間の子供2人が相続することになります。ただし、非摘出子(婚姻関係にない父母から生まれた子)の相続分は、摘出子(婚姻関係にある父母から生まれた子)の相続分の2分の1なので、貴女と夫との子供は、非摘出子として法律上の妻との間の子供の相続分の2分の1となります。結論として、夫名義の不動産及び貯金について、貴女はその2分の1の共有持分権を主張でき、残り2分の1の夫の遺産について相続が開始し、相持分は、法律上の妻がその2分の1で総財産の4分の1、その妻との間の子供が4分の1の2分の1の8分の1、貴女との間の子供2人は、それぞれ16分の1となります。