根抵当権の種類


根抵当権には、累積式根抵当と共同根抵当の二種があるとお聞きしましたが、両者はどのように違うのでしょうか。実務ではどちらが利用されるのですか。


 1.累積式根抵当とは、XY間の取引について、甲乙丙3個の不動産の上にそれぞれ1,000万円の共同根抵当権が設定されている場合、3つの不動産で結局1,000万円しか負担しないものではなく、合計3,000万円負担するものというように極度額が累積されるものをいいます。
 これに対し、3つの不動産で1,000万円を負担するという共通の負担をするのが、共同根抵当権あるいは純粋共同根抵当権といいます。 2.新法は、根抵当権設定と同時に同一の債権の担保として数個の不動産の上に根抵当権が設定された旨を登記した場合には純粋共同根抵当権として、普通抵当権の共同抵当権に関する民法第392条・第393条が適用されるとしています(398条の16)。「同一の債権の担保として」設定されているとは、担保される債権は、どの時点においても、どの1つをとってみても、すべての根抵当権によって担保されているという意味です。従って、被担保債権の範囲決定の基準も、債務者も、極度額も、すべての根抵当権について同一でなければなりません。純粋共同根抵当権について、全部譲渡または一部譲渡をすることもできます。しかし、これもすべての不動産について一様にこれを行い、かつその登記をしなければ効力が生じません。また担保される債権の確定はすべての不動産について一様に生じます。すなわち、1つの不動産について確定事由が生じますと、すべての不動産について確定します。
 これに対し、数個の不動産の上に根抵当権が設定される場合、上記の純粋共同根抵当権でないものは、すべて累積式根抵当となり、新法は累積主義を原則とする立場をとっています。上記の例で、Y銀行は貴社との銀行取引によって取得するすべての債権について、合計3,000万円まで優先弁済を受けることができます。確定は、各根抵当権について別々に生じます。 3.実務では、X所有の建物とX所有の底地を担保にとる場合は、別々に担保評価は難しい、この土地と建物全体でいくらの担保価値があるかと評価するから、このような場合純粋共同根抵当をするのが多いと思われます。
 これに対し、X所有の工場と、代表者A個人の住宅敷地を担保にとる場合には、工場はいくら、住宅はいくらと別々に評価することができやすいので、累積式根抵当にしておくと、工場の方で確定事由が生じても、住宅の方は確定しないので、それで融資が続けられるメリットがあります。
 根抵当権者にとっては、累積主義根抵当は、根抵当権の変更、譲渡等は設定者全員の承諾をとらなくてもできるし、確定も別々に生ずるので便宜ですから実務では累積式根抵当の方がよく利用されるといっていいでしょう。新法もこれを原則とする立場をとっています。