根抵当権の確定


根抵当権によって担保される債権は、増減変動する不特定のものであるということですが、何時までも不特定であると根抵当権設定者である当社にとって長期に拘束され、不安な感じがしますが、どうなのでしょうか。


根抵当権の被担保債権は増減変動不特定のものですが、一定の事実が生じますと、根抵当権はいわばその流動性を失って、その時に存在する元本債権だけが担保され、そらから後に発生する元本債権は、被担保債権の範囲に属する性質のものでも、担保されない状態となります。これを根抵当権の確定といいます。根抵当権では、この確定という概念が重要な意義を有していますので、以下詳しく説明致します。
1.確定事由と確定の時
(1)確定期日の到来
 根抵当権について確定すべき期日を定めた場合には、その期日の到来した時に確定します。
(2)確定請求
 確定期日を定めなかった場合には、根抵当権設定者は、根抵当権設定の時から3年を経過した後に、確定を請求できます。そして、請求したときは、その請求の時から2週間を経過した時に確定します(民法398条の19)。
 根抵当権が長期に及び、設定者がその拘束によって不当な不利益を受けることを救済するうものです。2週間の期間経過後に確定するとしたのは、根抵当者に対して、確定に対する心構えをし、適当な措置を講ずる余裕を与えるためです。 (3)「担保スベキ債権ノ範囲ノ変更、取引ノ終了其他ノ事由ニ因リ担保スベキ元本ノ生ゼザルコトト為リタルトキ(民法398条の20第1項1号)。
(イ)「担保スベキ債権ノ範囲ノ変更」による場合
 例えば、甲の債務者をSとする根抵当権を譲受けた乙が特定の担保として利用するとき、いいかえれば、乙がSに対する特定の債権を担保するために第1順位の根抵当権を譲受けた時などがその例です。
(ロ)「取引ノ終了」による場合
 根抵当権と債務者との間の被担保債権を発生させる原因たる取引関係が終了した場合。被担保債権の範囲が「特定ノ継続的取引契約ニ因リテ生ズルモノ」に限られている場合に、その契約が解約、解除などで終了した場合は、典型的な例です。
(ハ)「其他ノ事由」による場合
 根抵当権の被担保債権の範囲を「特定ノ原因に基キ債務者トノ間に継続シテ生ズル債権」と定められている場合に、その特定の原因が消滅したとき、例えばS工場の操業による有毒排水によって継続的に生ずる損害賠償請求権を担保するものと定めた場合に、S工場が操業を終止した時などがその例です。
(4)根抵当権者が、根抵当不動産について「競売」の申立、または第372条で準用される第304条の規定によって「差押」の申立をしたとき。ただし、競売手続の開始または差押があった時に限る(398条の20第1項2号)
(5)根抵当権者が抵当不動産に対し「滞納処分ニ因ル差押」をした場合(同条同項3号)
(6)根抵当権者が、第三者による「抵当不動産ニ対スル競売手続ノ開始又ハ滞納処分ニ因ル差押アリタルコトヲ知リタル時ヨリ2週間ヲ経過シタルトキ(同条同項4号)。」
(7)債務者または根抵当権設定者が破産の宣告を受けたとき(同条同項5号)。
2.確定の効力
 確定の効力を生じますと、元本債権は、その時に存在したものだけが根抵当権によって担保され、その後に発生するものは担保されない状態になります。1500万円の極度額で現在の貸付残高は手形貸付や手形割引等特定の債権で1000万円しかない、500万円の枠が空いている場合であっても、特定債権担保になった根抵当ですから、500万円の空き枠は新規の貸付には使えないのです。
 それでは、根抵当権は確定によって特定債権を担保するのだから、普通抵当になるのかと言いますと、そうではありません。普通抵当の場合には、最後の2年分の利息しか優先弁済を受けることができませんが、根抵当の場合には、極限額に達するまでは、何年分の利息でもよいのです。前記の例では、500万円の枠いっぱいまで2年分以上の利息を担保出来るのが根抵当権の特徴で、普通抵当とは違うのです。 3.確定前にはできるが、確定後にはできないこと
 根抵当の確定によって、その時に存在した被担保債権は、その根抵当権によって終局的に担保されることになり、その意味で附従性を取得します。その結果、確定前と確定後とで適用される理論を異にします。
 確定前にはできるが、確定後にはできないことを列挙しますと、
(1)根抵当権の内容の変更、すなわち、
(イ)被担保債権の範囲の変更・債務者の変更
(ロ)極度額の変更
(ハ)確定期日の変更
(2)相続・合併による包括承継 (イ)根抵当権者または債権者の死亡に際し、その地位を承継して根抵当権を流動性を失わない状態で承継する者を定めることも、確定前に相続が開始した場合にだけできます。
(ロ)合併
(3)根抵当権としての処分(譲渡・一部譲渡)(398条の12、398条の13) 4.確定してはじめてできること
(1)個別債権についての随伴性ある変更
 根抵当権が確定しますと、個々の被担保債権についての譲渡、代位弁済または債権者もしくは債務者の交替による更改があれば、普通抵当権の被担保債権の一部についてこれからの事由が生じた場合と同様に、一般原則に従って、被担保債権の移転に随伴します。
(2)根抵当権についての譲渡・放棄、順位の譲渡・放棄
5.確定後に認められる特別の制度
(1)極度額減額求権(398条の21)
 根抵当権が確定し、被担保債権の元本は500万円であったとすると、極度額1,500万円で1,000万円の枠が出来ます。そこで、これに後順位で根抵当権を設定しようとする場合、設定者が極度額減額請求をすると、そのときにおける元本500万円と利息・損害金2年分の額まで極度額が変更になるのです。
(2)根抵当権消滅請求権(398条の22)
 根抵当権が確定し、被担保債権の元本は2,000万円であったとすると、極度額1,500万円を越える500万円については任意弁済をうければ根抵当物件で1,500万円が確保され、根抵当権者は2,000万円全額弁済を確保できることになります。しかし、もともと根抵当権者は極度額の1,500万円だけ優先弁済が受けられれば、この根抵当権が消滅しても文句が言えない筈であります。そこで、物上保証人や第三取得が極度額に相当する金額の払渡しをするか、供託をして根抵当権の消滅請求をすれば、根抵当権が消滅する効果が生ずるようにしたのです。