抵当権の効力の及ぶ目的物の範囲


取引先Y所有の宅地及び建物に抵当権を設定してありましたが、その後Yは建物を増築しました。建物抵当権は建物の増築部分にも及ぶでしょうか。また、建物抵当権は建物の従物に及ぶでしょうか。さらに、宅地に対する抵当権の効力は庭木、石燈篭、庭石及び飛石にも及ぶでしょうか。


1.抵当建物に増築をした場合。増築部分に抵当権の効力が及ぶかどうかは、増築部分が建物としての独立性をもつものであるかどうかにより、異なります。
(1)増築部分が独立性を有する場合
まず、増築部分が建物としての独立性をもつときは、担当権の効力は増築部分に及びません。増築部分が建物としての独立性を有するかどうかは、取引上の観念によって決します。
 ここで、最高裁昭和39年1月30日判決(民集18巻1号196頁)を参考事例として紹介しておきます。
 「日本橋兜町2丁目55番地2所在家屋番号55番の6木造瓦葺2階建店舗兼居宅1棟建坪28坪1合5勺2階15坪」の建物(以下単に従前の建物と称する。)であったが、所有者たる上告人甲は契約後、右建物に隣接して別に所有していた「前同55番の2所在家屋番号同町73番 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建店舗1棟建坪18坪」を取り毀して、その跡に、前記従前建物の壁に接続して、建物を築造した。被上告人は、該築造部分はその構造上従前の建物と一体を成すものであって、該建物は右新たな築造の結果、「木造瓦鋼板葺2階建地下室屋階付店舗兼居宅1棟坪33坪4合4勺地階18坪9号9勺屋上3坪」となり、(以下単に現士建物と称する代物弁済予約の効力は、この建物の全体に及ぶと主張した。第一審、二審とも被上告人の主張を容れたが、最高裁は、上告人の主張を容れ、原審がもっぱら従前の建物と築造部分との物理的な結合状態如何の認定に終始し、取引または利用上の観点から築造部分が独立性を有しないか否かを審究判示しないで、直ちに両部分の一体性を是認し、本件代物弁済の予約の効力が築造部分にも及ぶものと判断したことは、建物の個数ないし同一性の判定に関する法則を誤り、延いて審理不尽、理由不備の違法に陥ったものであると判断した。
(2)増築部分が独立性を有しない場合
 つぎに増築部分が建物としての独立性を有しない場合には、抵当権の効力は増築部分に及びます。判例でも、抵当権設定後に増築された茶の間(大決大正10・7・8民録27・1313)、抵当権設定後、建物の付属建物として同一用紙に登記されたもの(大判昭9・3・8民集13・241)、抵当権設定後焼失し改めて新築した付属建物(納屋)(名古屋高決昭30・6・22判時59・18)に抵当権の効力が及ぶとしたものがあります。 2.建物抵当権は、建物の従物に及ぶかは、従物が抵当権設定時のものか否かによって分けてお答えします。
(1)抵当権設定当時の従物
 まず、抵当権設定当時の従物、すなわち物の常用に供するために付属させた物(民法第87条1項)にも抵当権の効力が及ぶことについては、判例・学説上異論がありません。
 抵当権設定当時の畳・建具類がこれにあたります。(大(連)判大正8・3・15民録25・473) (2)抵当権設定後の従物
 抵当権設定後に付属させた従物にも抵当権の効力が及ぶかどうかについては、判例と学説との対立があります。
 近時の学説は、抵当権の効力が設定後の従物にも及ぶことを認めています。従って、とりかえた畳・建具類に抵当権の効力が及びます。
 これに対し、判例は、抵当権設定後の従物には抵当権の効力が及ばないとしています。設定後の硝子戸・雨戸・戸扉についての競落人と譲渡担保権者の争いで、従物ならば抵当権の効力が及ばないという(大判昭5・12・18民集9・1147頁)。もっとも、前述したとおり抵当権設定後に造られた付属の茶の間を従物とみながら抵当権の効力を及ぶとした判例などもあることから、判例理論の適用は必ずしも明快でないと言えます。
 私は、学説と同様に、民法370条の抵当「不動産ニ附加シテ一体ヲ成シタル物」の中には、従物も含まれると解すべきで、抵当不動産の従物は、抵当権設定当時すでに「付属セシメ」られているものだけでなく、その後「付属セシメ」られたものも抵当権の効力に服すると考えます。 3.宅地に対する抵当権の効力は、特段の事情のないかぎり、抵当権設定当時右宅地の従物であった石燈篭及び庭石にも及ぶものとするのが判例です(最高裁昭和44年3月28日判決民集23巻3号699頁)。上記裁判で問題になっている物件は、庭木。石燈篭、庭石及び飛石であるが、その数量は、各種庭木60本、石燈篭12個、庭石大小あわせて145個、飛石20個である。最高裁は、本件石燈篭及び取り外しのできる庭石等は本件抵当権の目的たる宅地の従物であり、本件植木及び取り外しの困難な庭石等は右宅地の構成部分であり、本家宅地の根抵当権の効力は、右構成部分に及ぶことはもちろん、右従物にも及ぶとしています。