保証


商品取引をするに当たり、取引先に保証人を立ててもらおうと思っていますが、連帯保証と単純保証とでは、どのような違いがありますか。どちらが当社にとって有利でしょうか。


保証人は、主たる債務者がその債務を履行しない場合にその履行の責に任ずることによって、主たる債務を担保するものです。債権の担保に物的担保と人的担保とがあります。通常、銀行等が物的担保(抵当権等)をとっており、担保余力がないことが多く、後順位の抵当権設定等をしても、それにより債権回収が出来ないことが多いのです。こんな場合一般の債権者としては、人的担保として保証人をたてさせて債権の保全をしておくことが利用されています。
 貴社が取引先に保証人をたてさせるとの事ですが、連帯保証は普通の保証より有利ですから、連帯保証契約を締結することをおすすめします。
 連帯保証が普通の保証より何故有利かと言いますと、 第1に、連帯保証人は催告の抗弁権をもたないのです。
 債権者が保証人に請求した場合に、保証人は「先ヅ主タル債務者ニ催告ヲ為スベキ旨」の抗弁をすることができます(民452条本文)。これを保証人の催告の抗弁権といいます。
 有効に催告の抗弁権が行使されたときは、債権者は、主たる債務者に対して催告をしない以上保証人に対して請求することは出来ません。なお、有効な催告の抗弁権の行使があったにも拘わらず債権者が主たる債務者に対して請求することを怠り、その後主たる債務者から全部の弁済を受けられないようになったときは、保証人は、債権者が直ちに請求すれば弁済を受け得たであろう限度においてその義務を免れます(民455条)。
 ところが、連帯保証の場合には、保証人は催告の抗弁権をもたないのです(民454条)。債権者は主たる債務者に対して催告をしないで、いきなり連帯保証人に請求することができるのです。 第2に、連帯保証人は検索の抗弁権をもたないのです。
 債権者が主たる債務者に対して催告をした後に保証人に対して請求をした場合でも、保証人は、更に、「先ヅ主タル債務者ノ財産ニ付キ執行ヲ為ス」べき旨の抗弁をすることができます(民453条)。これを保証人の抗弁権といいます。
 有効に検索の抗弁権が行使されたときは、債権者はまず主たる債務者の財産について執行をしなければ、保証人に対して請求をすることができません。なお、有効な検索の抗弁権の行使があったにも拘らず、債権者が主たる債務者に対して執行することを怠り、その後、主たる債務者より全部の弁済をうけられないようになったときは、保証人は、債権者が直ちに執行すれば弁済を受けえたであろう限度においてその義務を免れます(民455条)。
 ところが、連帯保証の場合には、保証人は検索の抗弁権をもたないのです(民454条)。債権者は主たる債務者に対して執行しないでいきなり連帯保証人に請求することができるのです。借主の不動産が競売されないのに債権者からいきなり裁判を提起されたと憤慨した保証人から相談を受けることがありますが、単純保証ではなく連帯保証であれば、相談者の言い分は何ら法的に認められません。 第3に、単純保証の場合、保証人に対する請求が主たる債務者に対して影響を及ぼさないのです。保証人に対し訴提起をしても、主たる債務者に対する請求とならないのですから、訴の係属中にも消滅時効は進行します。
 ところが、連帯保証人に対する請求が主たる債務者についても効力を及ぼします。 即ち、連帯保証人に対して請求すれば、主たる債務者に対して、請求したと同一の効果を生じます。連帯保証人に対する裁判上の請求、裁判外の催告と同人に対する6カ月以内の支払命令の申請などは、いずれも主たる債務の消滅時効を中断します。

当社Xは、A土建会社(代表取締役B)から住宅一棟建築の下請をしましたが、A社は昭和60年3月31日不渡手形を出し倒産しました。A社の社長Bは行方不明でBの兄Yが中心になって同社の任意整理をしているようです。当社のA社に対する請負代金1300万円を回収する良い方法はありませんか。


私は、X社から上記の相談を受け、X社に対し、A社が倒産に至った経緯、Yを中心とする任意整理の動向、A社、B及びYの資産等の調査を指示するほか、Yやその親族に本件請負代金につき連帯保証をさせられるか交渉することを指導しました。
 結果的に、X社は、Yと、昭和60年4月15日、本件請負代金1300万円につき連帯保証契約を締結することに成功し、念書をとることができました。
 この念書の効力をめぐり裁判になりましたので、私が代理人として活動した裁判経過を記し、緊急時に、上手に保証をとり、債権回収をはかった例として報告します。
 念書では、Yは父親の土地を宅地分譲して売り、その利益より連帯保証債務を履行するということだったのですが、それがなかなか履行されませんでした。その間、A社の任意整理が債権者委員会により、着々と進行し、同年12月16日、9.8%配当するとの通知があり、残債権放棄の書類を返送するよう要請がありました。これに対し、私は、残債放棄書に同意をすると、A社に対する主な債務(請負代金)が消滅してしまうので、Yに対する連帯保証債務も消滅し(これを保証債務の附従姓といいます。)以後Yに何ら請求出来なくなるので、債権放棄書に同意しないよう指導をしました。任意整理の配当金受領書だけを発行するようにさせました。
 任意整理の配当金受領金後、Yから何ら支払いがなく、督促をしても支払わなくなった段階で、Yに保証債務の履行させるためX社から裁判の依頼を受けました。
 そこで、先ず、昭和61年1月22日、内容証明郵便でYに対し、配当金を控除した残約1170 万円を支払うよう催告をしましたところ、Yの代理人弁護士から少額の弁済をする旨の回答を得ました。
 その後、相手方弁護士と話合いを継続しましたが、満足のいく回答が得られず、止むを得ず、同年5月16日Y所有不動産(マンション)につき、不動産仮差押決定を得ました。そして、同年6月6日連帯保証債務金履行請求の訴を提起し、法廷闘争に持ち込みました。
 法廷で、第1に、Yは連帯保証をした覚えがないと争いました。そして、仮に連帯保証をしたとしても、第2に、X社社長に脅迫されて連帯保証したものであり、Yの連帯保証の意思表示はXの脅迫に基づくものでこれを取消すという主張をしました。第3に、Yの連帯保証の意思表示は、Yが父親の土地を譲受けることを停止条件とし、その土地を譲受けたときに同土地により連帯保証債務を履行することを約したものであるが、その後父親の協力を得ることができなくなり、土地の譲渡を受けることができなくなった。第4に、Yは連帯保証当時、その債務を履行しうるだけの資力はなく、父親から土地を譲受けることができるとの見込みのもとに連帯保証を約したものであり、その連帯保証の前提事実たる土地の譲渡が不可能であったから、Yには意思表示の要素の錯誤があったので、連帯保証契約は無効である。第5に、連帯保証契約した当時、主債務者のA社は事実上倒産して、その債務の履行をまったく期待することができない状態であったのに、XはA社の倒産直後でY自身も混乱している窮迫状態に乗じて、Yに連帯保証を承諾させたものであるから、連帯保証契約は公序良俗に反する無効の契約である。第6に、A社の倒産整理については、債権者委員会が事実上同会社の財産を管理して、配当手続きをした。債権者委員会は、各債権者に配当するに当たっては、配当金を除く残債権を放棄することを同意する旨の同意書と引換えに配当金を支払うこととしたのであり、Xは、配当金を除くA社のX社債務を免除したので、Yの連帯保証債務も消滅した。
 以上6つの論点でYは全面的に争い、支払いを拒否しました。私は、X社に、連帯保証をさせるのに無理な要求をしていないし、その後の処理は私の指導どおり行っているので、本件は勝てる裁判だと励ましました。
 裁判所はX社の主張を認め、連帯保証契約は有効であると判断しました。その要点は、第1に、連帯保証の念書に署名捺印を求められた時、Yは父親の確定的な承諾を得ていなかったものの、A社の債務の弁済の財源とするため同人所有の土地を他へ売却処分することについて、同人の承諾を得ることが可能であるという認識を有していたので、原告の要求に対し、Yは父親から土地を譲受けそれを売却処分し、その売却益をX社に弁済することを提案し、土地処分が実現するまで弁済を猶予することを依頼したところ、X社社長はこれを承諾したのである。従って、Yが連帯保証するという認識を有していたことは明らである。第2に、YがA社の倒産後の処理に当たっていたことから、X社に連帯保証の念書を差入れたものであって、強迫による取消や公序良俗に反して無効など、Yの主張する抗弁は一切認められない。
 なお、X社は債権者委員会に対し、債権届出に際して、完全な弁済が得られないかぎり債権を放棄しない旨の回答をしており、配当の際にも配当金の受領書のみを債権者委員会に送付したのみで、残債権放棄の同意書を送付していない事実から、X社には、その債務免除の意思表示をしていないと判断しました。
 結局、訴提起して1年半後である昭和63年1月20日X社に全面勝訴の判決が言渡されました。

当社Xは、取引先Y社と商品の卸し及び資金の融通など継続的な取引関係にありY社社長Aと根保証契約を締結していますが、根保証をしてあれば心配な事は起こりませんか。
 ところで、最近AがY会社を退職することになったそうです。当社にしてどう対処したらよいのでしょうか。


.株式会社では、株主は株式の引受価額を限度とする出資価額を限度とする出資義務を負うだけであって(商200条1項)、それ以外に義務はありません。これを株主有限責任の原則といいます。そこで、債権者は会社役員の個人保証をとって債権の保全をします。銀行等債権者は、会社に貸付をする場合、必ずといってよいほど、会社役員と連帯保証をしています。会社に資産がない場合、取締役個人から債権回収をはかることを目的とするのです。
 ところで、保証の種類として、根保証が実務上よく利用されていますが、これは、銀行と商人との間の手形割引・手形貸付その他一切の信用取引によって生ずる債務を保証する、というような、一定の継続的取引関係から将来発生するすべての債務を保証する契約です。
 根保証は、保証人の立場からすると、保証すべき金額がいくらとなるのか、また保証すべき期間はいつまでか不安定です。そこで、裁判では、根保証人の責任を合理的に軽減しようとしていますので、紹介しておきましょう。
 第1に、保証人の責任を負うべき限度額が定められていないときにも、その責任は無限の額に及ぶと解すべくではなく、当該保証のなされた事情、保証される取引の実情などによって、そこにおのずから合理的な限度があります。従って、保証される債務が取引慣行に反して不合理に拡大したときは、保証の限度は合理的な範囲に制限されます。例えば、当座貸越契約において、銀行の貸越の範囲を一応2000円と定め、事情によってはそれ以上貸越をすることがあり、その部分についても保証人が責任を負うものと定められていたときでも、貸越額が6万円近くになったときは、取引界の慣行を基準として合理的な制限を加えるべきであるとした判例があります(大判大15・12・2民集5巻769頁)。
 第2に、保証すべき取引の期間が保証契約で定められてないときは、保証人は、保証契約締結後相当の期間を経過した後に、保証契約を解除(告知)することができます(大判大14・10・28民集4巻656頁)。債権者の同意がない限りいつまでも保証責任を免れえないとしておくことは、保証人にあまりに酷な結果となるからです。
 第3に、債務者の資産状態が急激に悪化したような保証契約締結の際に予測しえなかった特別の事情があれば相当の期間を経過しなくとも解除できます(大判昭9・2・27民集13巻215頁)。
 第4に、組合の理事であるがゆえに組合の取引上の債務につき根保証をした場合には、理事を辞任した以降は、それを理由に保証契約を一方的に解除できます(大判昭16・5・23民集20巻637頁)。理事はその就任中は取引に関与し、組合の行動を監視し、その資産状態を知ることが出来るけれども、一旦辞任した後はこのような行動ができず、自分が関知しない取引より生じた債務だけ責任を負うのはその理事に酷な結果となるからです。
 上記判例は組合の理事についてのものですが、株式会社の代表取締役の場合も同じで、代表取締役を退職した者は、退任した以降それを理由に保証契約を一方的に解除することができます。従って、貴社(X)はAと根保証契約を締結してあっても、Aが退職したら、今後の取引により生ずる債務については、Aに保証責任を追及できません。Y社に対し、至急に新しい保証人を追加するよう要求して下さい。