倒産と債権譲渡


長年の取引先Y社が手形不渡りを出して倒産しました。ところで、Y社は、取立て確実な売掛債権を有していますので、当社(X)はこれを譲受けたいのですが、どうしたらよいのでしょうか。


 破産管財人として倒産企業の財産を調査してみますと、不動産には抵当権が担保価値以上についているし、在庫商品はそれを納入した債権者が引き揚げてしまっている。残るのは売掛債権だけという現象がよくみられます。
 これを債権者の側からみると、売掛債権の譲渡を受けて、債権回収をはかろうとするのは賢明な方法です。貴社は、Y社がどこに売掛債権を有しているかを知っておられるようですが、これだけで他社との競争に勝っているといえます。通常、債権者は倒産企業がどこにどのような売掛債権を有しているか判らない為、この調査に手間取ります。一刻も早く、この売掛債権の存在を知った債権者が他の債権者より優位に立ちますので、日頃から、取引先の情報を集めておくことが、いざというときに役立ちます。第一回目に倒産企業からの商品引き上げの話をしましたが、それよりも倒産企業の帳簿を調査して売掛債権の存在を知る方が、より債権回収に効果をあげることが多いことがままあります。
 債権譲渡は、債権者(譲渡人)と第三者(譲受人)と債務者のうち、債権者と第三者との契約で出来ますので、債務者の意向をきく必要がありません。ただし、債務者に対して、債権譲渡の通知をするかそれとも債務者が債権譲渡を承諾するかしなければ、債権の譲渡を債務者に対抗出来ません(民法467条1項)よって、債権譲渡通知書を作成して下さい。
 そこで、債権譲渡の通知の仕方でありますが、倒産という緊急時に債権を譲り受けるわけですから、工夫が必要です。債権譲渡通知書には、1.誰(Y社)が、2.誰(X社)に対し、3.何(譲渡債権)を、4.どうした(譲渡)5.宛先(債務者)という要件だけ書いてあれば充分です。その他挨拶文句や、「よって、以後X社にお支払い下さい」という文句など緊急時には不要です。5の記載は、譲渡する債権を特定するためで、ほかの売掛債権と混同しないようにして下さい。商品の売買代金債権か請負工事代金債権か貸付金債権か等債権の種類も特定した方が良い。金額がはっきりしない場合には、売買代金債権「全額」とすればよい。金額を確かめるために手間取っていてはいけないのです。ところで、債権譲渡通知書は譲受人が作成しても無効です。譲渡人が作成しなければなりません。そうかといって譲渡人は、倒産した企業が譲渡通知書を作成してくれるまで待っていては、他の債権者に先を越されてしまいます。譲受人の方で作成できる部分は記載してしまって、譲渡人(Y社)の代表取締役の名前だけ空欄にしておきます。そして、Y社の社長に、空欄部分に署名だけしてもらうと、立派に譲渡人の作成した債権譲渡通知書が出来上がりです。社長印を持っていなかったら、捺印しなくてもかまいません。署名があれば十分です。5の宛先につき、宛先(債務者)の社長の氏名がわからない場合には、会社名だけで発送して下さい。
 さて、債権譲渡通知書ができましたら、それに確定日付を取って下さい。なぜならば、「確定日付ある証書を似てする」通知または承諾でないと、債務者以外の第三者に対抗出来ないからです。(民法467条2項)。例えば、Y社が債務者に対する債権をX社に譲渡し、さらに、Y社が同一債権をZ社に譲渡した場合、X社とZ社との優劣は、確定日付ある債権譲渡を有している方が優先します。倒産したY社は、混乱状態に陥っていますので、このように二重譲渡することがよくみられます。確定日付は通常、1.公証人役場で確定日付印を押捺してもらう、2.内容証明郵便として発送する、のどちらかの方法です。
 次に、確定日付をとったら、債権譲渡通知書を債務者に届けなければなりません。通知又は承諾に確定日付をとって、これで安心というわけにはいきません。ここで、興味深い最高裁判決をご紹介します(最判昭和49.3.7民集28巻174項)。Xは、昭和44年2月13日頃、訴外Aが東京都下水道局長に対して有する補償金請求権を譲り受けました。そして、Aは、右債権譲渡の通知として、東京都下水道局長宛の債権譲渡と題する書面に公証人Bから同月14日付の印章を押捺をうけ、同日午後3時頃東京都下水道局に持参してその職員に交付しましいた。一方、Yは、Aに対して有する債権の執行を保全するため、同月14日東京地方裁判所から、本件債権に対する仮差押命令を得、この仮差押命令正本は、同日午後4時5分頃第三債務者たる東京都下水道局長に送達されました。第1審、控訴審ともXが敗訴となりました。しかし、最高裁は、Xを勝訴させました。「指名債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互間の優劣は、確定日付のある通知が債務者に到達した日時又は確定日付のある債務者が承諾の日時の先後によって決すべきである」というのが最高裁判決要旨です。仮差押命令が2月の14日午後4時5分に債務者に送達されたのに対し、債権譲渡通知が同じ午後3時頃債務者に到達しているので、債権譲渡が優先するとしたのです。なお、上記最高裁判決は、債権を譲り受けようとする第三者は、先ず債務者に対し、債権の存否ないしはその帰属を確かめるのが通常だと述べていますので、債権譲渡の際、債務者にそれを確認して下さい。