倒産と債権回収(商品引き揚げ)
長年の取引先Y社が昨日倒産しました。当社(X)の営業マンが早速駆け
付けたところ、当社がつい先日納入した商品が工場にありました。これら
の商品を引き揚げても良いでしょうか。ついでに他の商品も持って来ることが出来ますか。
貴社が納入した商品とそれ以外の商品をY社から持ってくる方法は別々に
考えて下さい。
1.まず、貴社が納入した商品引き揚げは、もっとも基本的な債権回収の手法です。
これが出来なければ、営業マンとは言えません。この場合窃盗罪にならない方法を
とるよう注意して下さい。窃盗罪で処罰されるのは、所有権、占有を侵害する行為
でありますから、相手の意志に反しない商品を引き揚げれば窃盗罪になりません。
そこで相手方の意志に反しないためには、最も簡単な方法は相手の承諾を得れば良いのです。
「X社です。これを引き揚げさせてもらいます。いいですか。」と言って、相手方は「どうぞ、持
ち帰って下さい」と言えば、商品引き揚げを承諾したのですから、窃盗罪になりません。
ところが、倒産直後はY社の社長の行方をくらましている場合が多いのです。工場にいる社員に向
かって、上記のような質問をしても、社員は明確に承諾の返事をしないでしょう。「社長に聞いてみ
ないとわからない」と答えるのに、商品を引き揚げると、これは、相手方が承諾してないと判断さ
れ、窃盗罪になりかねません。
そこで、商品を引き揚げるのに、無理に相手方の承諾の返事を得ようと質問しないで、反対されな
いような方法を取ると良いでしょう。「これを引き揚げさせて戴きます」と言って引き揚げます。こ
うすると社員が黙ってみているだけでしょう。この場合社員は商品引き揚げを「黙認」したということになり窃盗罪になりません。
次に、商品引き揚げにいったら工場にはY社の人が誰もいないで扉が開いていた場合はどうしたら
よいだろうか。
この場合は相手方の承諾も黙認も得られませんが、このまま放置しておくと、他の債権者に勝手に
持ち去られる危険が大きいので、商品引き揚げを諦めるべきではありません。貴社が「盗難事故
を避ける為に商品を預かります」という旨の貼紙を工場にして引き揚げたら良いでしょう。
2.貴社が納入した商品以外の品物を持ってくる場合は自社の納入した商品を引き揚げる場合に比較
してより厳格に考えなければいけません。
前記の「黙認」程度では窃盗罪になるでしょう。倒産時に、早いもの勝ちだと言わんばかりに、あ
らゆる商品の持ち出しが行われているのが現実に多くありますが、感心できるものではありません。
私が倒産企業の代理人として活動する場合には、窃盗罪で告訴する態度を取っています。
そこで、窃盗罪で告訴されないで、品物を持ってくる方法ですが、1つは、金銭債権に対する弁済
として物を受ける方法で、契約形式は「代物弁済」です。もう1つは金銭債権の担保として物を受け
る方法契約形式は「譲渡担保」です。いずれも、品物の所有権は、貴社に移転します。
ところで、代物弁済で品物を持ってくる場合は、その品物の評価が判らない為、あれこれ時間がかか
り、緊急の債権回収が出来ません。それよりも、譲渡担保にすれば品物を持ち帰り、後日時間をかけ
て売却して、債権に充当できます。譲渡担保契約書は「Y社のX社に対する一切の債務を担保する為
に、下記物件を譲り受ける」という旨の簡単な文書を作成します。譲渡担保の形式を取られることを
お勧めします。