中央会21世紀ビジョン報告書



は じ め に

―中小企業を取り巻く環境の変化と中小企業の新方向―


 いよいよ21世紀の扉が開かれた。21世紀の経済社会を規定する基礎的条件は、経済のグローバリゼーションと情報通信革命および人口の少子高齢化であると言われている。ここでは、これらの基礎的条件が中小企業にいかなる影響を与えていくか、そして中小企業はどのように対応すべきかを考えてみよう。
1 中小企業をめぐる環境変化と経営革新
 1・1 グローバリゼーションの進展と中小企業への影響
 1985年9月の先進5カ国のプラザ合意を境とする大幅な円高の進行とアジアNIEs諸国からの激しい追い上げにより、わが国の経済社会はグローバリゼーションの波にさらされることになった。89年のベルリンの壁の崩壊、91年のソ連邦の解体により、それまで大きく二分されていた世界経済が市場経済の枠組みの一つに組み込まれ、グローバリゼーションを一層進展させた。そして、IT(情報技術)革命、とくに情報通信技術の革新によるインターネットの普及・拡大は地理的、時間的制約を克服し、国境を超えたグローバルな企業活動を容易にした。このグローバリゼーションの進展に対応するため、大企業は海外直接投資を推進し、海外生産拠点を拡充した。中小企業は大企業の海外進出により受注の大幅削減を余儀なくされ、アジア諸国からの輸入品の攻勢と輸出市場の縮減により苦境に立たされている。しかし、グローバリゼーションの波に乗って国際的に活動している中小企業も増えてきていることは言うまでもない。
1・2 IT(情報技術)革命と中小企業活躍の場の拡大
 IT(情報技術)化の波はあらゆる産業分野に押し寄せ、浸透し、ミクロの企業とマクロ的な経済環境を変容していく。IT(情報技術)革命は新しいビジネスチャンスをつくりだすと同時に新たな淘汰を引き起こし、構造的再構築の起爆剤になるだろう。需要に応じて生産と在庫を最適化するSCM(サプライチェーン・マネージメント)システムや総務、会計、人事、生産および販売など基幹情報を統合し、効率的に運用するERP(統合基幹業務システム)はIT(情報技術)の活用によって進化しつつある。IT(情報技術)の進歩は、企業内部の経営組織構造を変革するのみならず、企業相互の関係など経営全般に対して抜本的改革を鋭く要求する。電子市場の発達・普及によって、複数の企業がインターネットで調達・購買を行い、最適生産を実現しようとしている。IT(情報技術)は、コストの削減効果に大きく貢献している。すなわち、それは、企業の内部取引コストの削減効果をもたらすと同時に外部取引費用を飛躍的に低減する可能性が大きい。したがって、企業の内部取引コストの削減効果を求めて、より規模の大きな組織形態で効率的な活動を展開する動きが活発になる。情報処理技術の革新は大企業相互の合併・提携を活発化している有力な一要因となっている。一方、インターネットによるネットワークを有効に使えば、外部取引費用の低減効果を取得することができ、中小企業活躍の場が広がる可能性が大きくなる。ここに、巨大合併の動きと新時代適応型の中小・零細企業の創業とが同時に生じる環境条件が形成されているといってよい。
1・3 大型合併の多発と新たな企業間関係の構築
 最近、それぞれの産業内および産業間にまたがった大企業相互の合併・提携が多発している。しかも、これまで想定できなかったようなライバル企業あるいは企業グループ相互の提携・統合の動きが盛んになっている。
 銀行業における日本興業銀行・第一勧業銀行・富士銀行の持株会社設立による合併(新社名…みずほホールデングス)、三和銀行・東海銀行・東洋信託銀行の合併(ユー・エフ・ジェ・グループ)、住友銀行・さくら銀行の合併(三井住友銀行)などの普通銀行をはじめ、信託銀行、生命・損害保険および証券の合併・提携が相次いでいる。石油業界の日本石油・三菱石油・コスモ石油の合併、海運業の日本郵船と昭和海運の合併、情報通信産業におけるDDI・KDI・IDOの合併は注目に値する。そして、紙パルプ、食品、医薬の各業界で合併が頻発している。
 では、なぜこのような大型の企業合併や提携が盛んに行われるようになったのか。それぞれの産業ごとに異なる要因があるが、概して共通した要因を挙げると次のとおりである。すなわち、(1) 1990年代の長期不況と経営の悪化(とくに銀行業の巨額の不良債権の発生による経営破綻と脆弱化)からの脱出と経営の体質強化のため、企業の合併・提携の道を選んでいる。(2) メガコンペティションの到来である。世界的規模で各国巨大企業間の競争の激化である。 国際的競争力の強化に向けて世界的企業間の事業提携、合併、買収が活発化している。(3) IT(情報技術)革命が企業の業際化を促し、企業合併や提携を推進している。(4) 規制緩和が企業の業際間の相互参入を促進した。同時に業種間および企業間の競争を激化するとともに、企業の合併・提携を推進しているのである。大企業は、長期不況と経営の悪化に伴い、不良債権の整理、不採算部門からの撤退、資産の売却に加えて人員整理や賃金抑制などいわゆる一連のリストラ対策を講じてきた。一方、これまで中小企業と密接な企業間関係を保ってきた大企業の多くは、方向転換を図る。大企業は、長期継続的取引関係にあった系列・下請企業を選別・淘汰し、あるいは系列関係を緩めて広く他企業との取引を行うようになる。要するに、これまでの硬直的な系列・下請制の上・下関係は流動化し、新たな企業間関係の構築の道を拓くこととなる。そして、あらゆる産業分野に渉って繰り広げられている大企業相互の合併や提携は、対中小企業の取引関係も大きく変えようとしているのである。
1・4 国内における産業社会の激しい構造的変化
 人々の価値観が多角化し、生活意識が多様化するにつれて、健康、安全、利便性、高度な機能性を求め、個性化、高級化、差別化のニ−ズが強まってきている。中小企業は、これら一連の質的需要構造の変化への迅速な対応を迫られている。流通構造の変化と規制緩和により地域中小商業者は減少し、商店街は弱体化している。金融ビックバンと金融再編成により中小企業の資金調達の変化が起こっている。
 地球環境保全と共存のための生産システムや製造方法の改革、リサイクルを想定した商品の開発、資源・エネルギー多消費型経済システムの見直しが強まってきている。高齢社会の到来に伴って医療費・年金など企業にとっての重い負担増が予測される。他方、高齢者の生活様式に合わせた商品やサービスの伸長が見込まれるが、中小企業はそれへのニュービジネスの開拓と進出が大きな課題となっている。
 以上、述べたとおり中小企業は、内外ともに広範かつ複雑多岐な環境変化に直面している。ところで、中小企業にとってこれらの厳しい環境の変化に対応し、経営の維持、発展を果たすことは容易ではない。確かに容易でないが、技術やニーズ・市場の多様化、細分化などさまざまな変化が起こっているからこそ中小企業にとって新事業の創出、新事業分野への進出など新しいビジネスチャンスや振興発展の可能性も生まれてくることを認識すべきである。経営革新こそ中小企業にとって新しいビジネスチャンスをつかみ、21世紀に成長発展する必要・不可欠の要因であることを再認識することが肝心である。
 1・5 中小企業の新しい生きる道(選択すべき有効な方向性)
 国際的コスト・価格競争力を弱めている中小企業は、従来型の定型化された単純・繰り返しの量産品の生産では、存立は難しくなってきている。これからの中小企業は企業経営を維持、発展するためには、非価格競争力の強化に努めねばならない。すなわち、「高品質、高機能、クリェティヴ」重視の専門企業に経営体質を改革する必要がある。経営体質を改革するためには、マーケット情報収集機能、商品企画・開発機能、技術開発機能、仕入れ・販売機能といった経営上の諸機能を強化する必要がある。中小企業は21世紀の新時代に適合し、力強く羽ばたくため経営革新に果敢に取り組み、活力ある企業をめざすべきである。
 1・6 新たなる組織化戦略…相互革新的な多角的連携
 振り返ってみると、中小企業の組織的母体である「中小企業等協同組合法」(中協法)が設立されてから約50年の歳月が経った。中協法に基づいて設立された中小企業組合は、戦後復興期には「金融円滑化」により中小企業の資金的体力強化に大きな役割を果たした。高度成長後期には、「中小企業高度化事業」が推進され、業界ぐるみ、地域ぐるみの構造改善事業が展開された。ところで、時代の流れは大きく変わり、中小企業組合も様変わりしている。従来の量産型スケールメリットを追及してきた中小企業組合は、市場構造の質的変化(ニーズの個性化、高級化、多様化に対応した市場の専門化、多様化、細分化)への対応を迫られている。ところで、対応すべき各種経営資源のレベルが高まっている現状において、中小企業にとって必要とする多様な経営資源(資金、人材、技術、情報収集力、流通チャネル、マーケティング力など)を自社内に同時に保有していくことが困難である。加えて、グローバリゼーションの進展とIT(情報技術)革命に即応するためには、新しい仕組みの対応と事業展開が切実な課題となっている。これからの中小企業組織化の選択すべき有効な方向性は、業種・産業の枠を超えた「多角的連携」という新しい仕組みの対応と事業展開にあると言ってよい。業種・産業の枠を超え各企業が積極的に他企業、機関をパ−トナ−として交流、連携して「技術の高度化」、「製品の高付加価値化」、「新製品の開発」、「新分野進出」の実をあげるネットワーク型の社会的分業システムの構築をめざすべきである。ネットワーク型企業行動は新しい企業間関係を形成するようになる。この新しい企業間関係は従来の閉鎖的で拘束性の強いものではなく、開放的で柔軟かつ緩やかな関係のもとで自律性、対等性を尊重する。各企業の得意分野の専門技術・機能の連携と融合により、自社単独では実現しえない相乗効果の総合力の発揮がネットワーク型分業システムの果たす目標である。


第1部 21世紀における中小企業及び県中央会の新たな課題と対応


1.中小企業連携による経営革新、創業等への対応
1.1 中小企業をめぐる国内外の環境変化と中小企業の動向
 ボーダーレス化・グローバリゼーションの進展に対応するため大企業は積極的に生産拠点をアジア諸国はじめ海外にシフトした。その結果、中小企業の受注は大幅に削減された。他方,中小企業はアジア諸国の激しい追い上げを受けるとともに国際競争力の低下を余儀なくされている。
 IT(情報技術)化の波はあらゆる産業分野に押し寄せ、浸透し、ミクロの企業とマクロ的な経済環境を変容していく。IT(情報技術)革命は新しいビジネスチャンスをつくりだすと同時に新たな淘汰を引き起こし、中小企業の新旧交替の場を広げる可能性が大きくなる。これまで中小企業と密接な企業間関係を保ってきた大企業の多くは、方向転換を図っている。大手親企業は長期継続的取引関係にあった系列・下請企業を選別・淘汰し、あるいは系列関係を緩めて広く他企業との取引を行うようになった。
 流通構造の変化と規制緩和により大規模小売り店舗の進出により地域中小商業者は減少し、商店街は弱体化している。地球環境保全と共存のための生産システムや製造方法の改革、リサイクルを想定した商品の開発、資源・エネルギー多消費型経済システムの見直しが強まってきている。高齢社会の到来に伴って医療費・年金など企業にとっての重い負担増が予測される。他方、高齢者の生活様式に合わせた商品やサービスの伸長が見込まれるが、中小企業はそれへのニュービジネスの開拓と進出が大きな課題となっている。以上、中小企業をめぐる国内外の環境変化は激しさを増しているが、新しいビジネスチャンスを求めて経営革新に取り組んでいる中小企業も少なくない。
1.2 中小企業基本法の改定と中小企業の経営革新、創業等への対応
 中小企業基本法は、昭和38年(1963年)の制定以来、時代の進展とともに再三その見直しが試みられたが、その実現が果たされなかった。しかし、平成年代に入り、中小企業政策体系の見直しが行われ、とくに平成7年(1995年)の「中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法(中小創造法)が制定されるに至り、中小企業基本法改正の機運が大いに高まっていった。この中小創造法は旧中小企業基本法に基づいたこれまでの業種別近代化政策や規模の適正化政策の流れを大きく転換し、個々の中小企業者の創造的事業活動を支援するとともに、これから創業期にある企業への支援と研究開発、新製品開発および新サービス開発を行う企業を支援することを目的としている。まさにこの中小創造法は新しい中小企業観の提示と従来の中小企業政策の基本理念の大転換を示唆していたのである。この中小創造法の制定は中小企業基本法の改定ヘ大きく第一歩踏み出すステップであったのである。
 かくして、平成11年12月に「改正中小企業基本法」が公布された。本法第3条(理念)において中小企業を「多様な事業の分野において特色ある事業活動を行い、多様な就業の機会を提供し、個人がその能力を発揮しつつ事業を行う機会を提供することにより我が国の経済の基盤を形成しているもの」と位置づけている。また同条において、「中小企業は、新たな産業を創出し、就業の機会を増大させ、市場における競争を促進し、地域における経済の活性化を促進する」役割を担う存在であると規定している。
 さらに本法第5条では基本指針の一つとして「中小企業者の経営の革新及び創業の促進並びに創造的な事業活動の促進を図ること。」と規定している。このような活動は、中小企業が行う事業活動の中でも特に新たな価値を生み出す可能性が高く、この事業活動を積極的に支援することが日本経済全体を活性化する観点より重要であるとの考え方に基づくものである。
 これからの中小企業は、このような期待に応え、経営革新に挑戦し、経営努力を続けていかなければならない。中小企業は「どのようにニーズ情報をつかむか」(情報収集力),「何をつくるか」(商品企画力)、「どのように新しい技術を磨くか」(技術力)、「いかにして販売ルートを開拓し、どのように売り込むか」(マーケティング力)などの諸経営能力を保持し、強化する必要に迫られてきているのである。要するに、自らリスクを負担し、自立的経営に必要なマーケット情報収集機能、商品企画・開発機能、技術開発機能、仕入れ・販売機能といった経営上の諸機能を備える必要がある。
1.3 多角的連携の必要性
 言うまでもなく、個々の中小企業は個別に経営資源の充実に取り組まなければならない。しかし、各種経営資源のレベルが高まっている現状において、中小企業にとって必要とする多様な経営資源(資金、人材、技術、情報収集力、マーケティング力または販売力など)を自社内に同時に保有していくことは容易ではない。では、中小企業はいかにして不足している経営資源を補強し、経営の活路を切り拓いていくべきだろうか。加えて、グローバリゼーションの進展とIT(情報技術)革命に敏速果敢に対応するにはどのような方向を目指すべきだろうか。これからの中小企業の選択すべき有効な方向性は、業種・産業の枠を超えた「多角的連携」という新しい仕組みの対応と事業展開にあると言ってよい。各企業は業種・産業の枠を超え、積極的に他企業、機関をパ−トナ−として交流、連携して、不足している技術や情報等の諸経営資源を補完・強化していくことが有効である。加えて、「技術の高度化」、「製品の高付加価値化」、「新製品の開発」、「新分野進出」の道を切り拓いていくことが望ましい。
 改正中小企業基本法の第16条では「国は、中小企業者が相互にその経営資源を補完することに資するため、中小企業者の交流又は連携の推進、中小企業者の事業の共同化のための組織の整備、中小企業者が共同して行う事業の助成その他の必要な施策を講ずるものとする。」と中小企業者の交流や連携の推進を提示している。
 このように改正中小企業基本法が中小企業の経営革新、創業、創造的事業活動をメインテーマの一つとしており、これらの活動を多角的連携を通して推進していくことが重要課題であることを明記しているのである。

2.多角的連携への対応
2.1 異業種交流活動から多角的連携活動へ
 多角的連携活動と密接な関連をもつ異業種交流活動自体の開始は1970年代にさかのぼる。1971年のドルショックと円高の進行、73年秋の第1次オイルショック、そして74年には戦後初のマイナス成長になるなど深刻な構造不況に見舞われ、中小企業の多くは経営不振に陥った。そこで、新しい活路の一環として、中小企業は事業転換を図り、あるいは異業種交流活動を展開していった。しかし、当時は今日のように本格的なグローバリゼーションの進展がみられず、IT(情報技術)革命のうねりはそれ程大きくなかった。また、日本的経営の特質である終身雇用制や年功序列型賃金制度が保持され、系列・下請制に基づく大量生産型経済のシステムが維持されていた。先にも述べたように、現下の中小企業をめぐる内外の経済環境は1970年代のそれとはその様相を一変しているのである。グローバリゼーションの進展とIT(情報技術)革命の大きなうねりに加え、少子高齢社会の到来、地球環境保全と共存のための生産システムの構築など中小企業の対応すべき重層的課題が山積しているのである。多角的連携活動を異業種交流活動と分けて考える論拠は中小企業をめぐる内外の経済環境の著しい変化のみならず、企業間関係の変化にある。1970年代における異業種交流活動において萌芽的にみられたネットワーク型の一連の協力・共同、連携活動が多角的連携活動においてより鮮明にかつ本格的に展開されてきているのである。
2.2 多角的連携活動の類型
 中小企業による多角的連携活動は、構成企業の業種の違い、経営規模の違い、技術の種類とそれぞれのレベルなどによって多様化している。そして、その連携活動をどのように展開していくかによって活動内容も変わっていく。ここでは、@ 技術・市場・情報交流段階、A 研究開発段階、B 事業化段階、C 市場化段階の4つの段階を想定してそれぞれの内容と特性について述べてみよう。
@ 技術・市場・情報交流段階
 異業種の中小企業が出会い、定期的に会合を開き、いかに技術や市場についての情報交換を行い、経営上の悩みや経営改善について意見交換し、相互理解を深め、自らの経営に役立て、進んで新たな研究開発や技術開発等に取り組む基盤作りの段階である。もとより、交流活動を主たる目的としている場合もある。組織形態は大抵は任意グルーブである。
A 研究開発段階
 グループ内のメンバー企業同士が一歩踏み込んで統一したテーマで研究開発、技術開発に取り組み、或いは新製品の開発を目指す。新技術開発に当たっては、関連技術等の調査、実験・検査・検証を行い、新製品開発では製品開発関連の技術調査、企画・設計、試作、品評そして特許・商標出願等より進んだ連携活動の段階である。組織形態は多様化していく。任意グループの他に協同組合、グループ内有志がある。
B 事業化段階
 開発された製品または商品を製造出来る生産体制を整備する必要がある。同時に市場調査とか需要予測等を行っていることが肝心である。組織形態は、市場化段階への基盤強化のためにも任意グループから一歩踏み込んだ共同出資会社等のより強固な組織づくりに取り組むことが大事である。
C 市場展開段階
 一口に市場化段階と言うが、研究開発段階から市場化段階へとレベルアップすることが難しい。製品開発段階から市場調査とか需要予測等を試みているが、いよいよ商品として販売しなければならない。そのためには、販売体制を確立し、販路開拓、展示会、見本市への出展、インターネットの積極的活用等販売促進活動に取り組む。組織形態は事業展開上、協同組合、共同出資会社等のより強固な組織が必要となる。
2.3 県内企業の多角的連携の実態
 中央会(石川県中小企業団体中央会)は、平成9年以来、多角的連携指導強化事業を実施している。その事業の一環として実施した平成9年度(1997年)の調査結果によると、県内企業による61グループの異業種交流および多角的連携の実態は次のとおりである。
@ 技術・市場・情報交流段階…38グループ(62.3%)
A 研究開発段階…14グループ(23.0%)
B 事業化段階…4グループ(6.6%)
C 市場展開段階…5グループ(8.2%)
 昭和63年(1988年)に県内の異業種交流・融合化事業の推進母体として「石川県中小企業融合化促進協議会」が設立された。この団体は平成8年に「社団法人石川県ニュービジネス創造化協会」と社団法人化し、積極的な活動を展開している。
2.4 多角的連携の展開
 国内における多角的連携の動向をみると、地域産業の振興や活性化を目指している事例が多い。たとえば、伝統的工芸品産業が集積する地域では、これまでの技能者・職人が交流・連携して素材を改良、改善したり、新しいデザイン力を付加して新しい工芸品や商品開発に励んでいる。地域に根ざした機械金属工業と関連業種の企業が連携して新製品の開発とその製品の販売活動を展開しているケースがある。また、農業経営者が食品加工業者と交流・連携して新しい加工方法を開発したり、農産物の高付加価値化を狙っている。そして、手薄な経営資源を補完・強化するため地元大学や公的試験研究機関から助言・指導を受け、既存技術の改良・改善や新技術の取得に励んでいる。加えて、地元大学や公的試験研究機関と連携して新製品の開発に大きな成果を上げているケースもある。
 要するに、経営資源に限界がある中小企業は自社に不足する技術や情報等の経営資源を、業種や産業の枠を超えた他企業・機関と多様な連携活動を通して補完・ 強化するとともに、新たな価値を生み出す効果があることを充分に認識することが肝要である。
2. 5 多角的連携の推進と中央会の支援強化
 将来の方向性が必ずしも明確となっていない中小企業を、多角的連携を通して各種のニーズやシーズの出会いの場を作ることから、多様で急激な環境変化に対応していく道を開いていくことが課題といえる。中央会は多角的連携の推進に関して下記の支援に取り組む必要がある。
(1) 既存組合等の連携組織の活用の推進、支援とコーディネータ的支援の強化
 中央会は、中小企業の経営革新、創業、創造的事業活動に対する企業ニーズを把握し、既存の組合等の連携組織の活用を推進、支援するだけでなく、中小企業の多角的連携のニーズを引き出し、多角的連携のコーディネータとしての支援をしていく必要がある。
(2) 業種別多角的連携の指導および支援マニュアルの作成
 本中央会はこれまで多角的連携指導強化事業を実施してきたが、中小企業の多角的連携を有効かつ円滑に推進するためにより詳細な業種別多角的連携の指導および支援マニュアルを作成することが不可欠である。
(3) 中小企業連携組織活用のPRと普及推進
 組合制度には最低資本金制度がないことや、有限責任のメリットを享受できること、また会社へのスムーズな変更が可能となったこと等、経営革新や創業等を促進していく上で大変利用しやすい組織であることをPRすると共に、中小企業連携組織活用の推進を行う必要がある。
(4) 産学官連携における関係機関との連携強化と協力体制の整備
 さらに、中小企業経営革新支援法、新事業創出促進法、中小企業創造的事業活動促進法等の関連法規が充分活用されるためのPR活動や、関係機関との連携強化を図るべきである。
 しかし、中小企業が異業種交流や産学官連携をしたいと考えも簡単にできるものではない。そこで、中央会の有する企業等のネットワークを活用し支援していくことと、また、産学官連携においては中央会以外の機関との協力体制の整備も重要である。

3. 急速に進展する情報化への対応
 近年、情報通信技術は長足の進歩を遂げている。これに伴いここ数年で情報関連機器類は大幅な低価格化を実現しておりパソコンの普及を促している。また技術の進歩はパソコンの通信回線をつなぐことを容易なものとし、情報ネットワークの急速な拡大をもたらしている。
 このような情報通信環境の変化は、企業内の各種の業務内容を単にスピードアップするばかりではなく高度な業務処理を可能なものとし、さらに情報ネットワークを活用した情報収集・発信を飛躍的に容易なものとしている。これは企業にとって新しいビジネスチャンス創造の機会を与えており、経済活動にも大きな変化を与えつつある。
 また、このような時代の変化を受け、情報技術革命推進の基本理念を定めた「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(IT基本法)が平成12年11月29日に成立し、平成13年1月から施行されることとなった。本法は「すべての国民がインターネットなど高度情報通信ネットワークを容易に利用でき、情報通信技術の恩恵を受けられる社会の実現」を基本理念とし、世界最高水準のネットワークの整備、規制の見直しなどを通じた電子商取引の促進、電子政府・電子自治体の推進、などを施策の基本方針としており、今後の情報ネットワーク化は一段と促進されるものと思われる。
 このような情報ネットワーク化への中小企業の対応を考えてみる。情報化への対応を円滑に行うことができれば、大企業との情報格差を埋めるばかりではなく、本来中小企業が持っている機動性をさらに強化できる手段となるものである。しかし、情報化への対応が遅れれば企業自体の存立を危うくするものであり、企業存立基盤に関わる喫緊な課題である。
 当中央会が平成12年6月に実施した「事業協同組合実態調査」によれば、「パソコン又はその他情報機器を活用して現在実施している事業」では「組合の事務処理」が60.9%と最も多く、「ホームページによる外部への情報発信」20.7%、「情報ネットワークによる情報交換」18.4%、「受発注システム」14.9%、「情報ネットワークによる共同仕入・調達」3.4%、「情報ネットワークによる共同販売」4.6%、と情報ネットワーク化に関わる事業については組合の性格により導入が難しい事業もあるが、まだ対応が遅れている状態といえる。一方、「パソコン又はその他情報機器を活用して今後実施予定の事業」においては、「組合の事務処理」が29.9%と既に実施している組合が多いことから少なくなっているのに反し、「ホームページによる外部への情報発信」40.2%、「情報ネットワークによる情報交換」47.1%、「受発注システム」16.1%、「情報ネットワークによる共同仕入・調達」12.6%、「情報ネットワークによる共同販売」16.1%、と情報ネットワーク化に関わる事業について導入の必要性を感じている組合が多いことがわかる。
(1) 情報リテラシー(情報処理・操作の基本能力)向上支援の強化
 情報ネットワーク化に対する中小企業や組合のニーズは高いものである。しかし、中小企業にとってこれを阻害する要因として人材が充分ではないことがあげられる。
 人材の問題については、まず情報ネットワーク化を推進するためには一部の担当者だけが情報機器に精通していても導入した情報機器が充分活用できないものであり、全従業員の情報機器やソフトを操作する基本能力(情報リテラシー)の向上が必要であり、中央会としては各レベルに応じた能力向上のための講習会開催など情報リテラシー向上支援が大切である。
(2) ネットワーク構築のための専門家派遣等支援の推進
 今後の電子商取引は非常に広範な分野に広がっていくものと思われる。このような状況に円滑に対応していくためには、企業間のプロトコル(通信規約)の統一やソフトの開発などが不可欠である。また、これらを中小企業が自社の内部で対応することは資金的、時間的に障害が多く、専門家の派遣等のネットワーク構築に対する支援が強く求められる。
(3) 連携組織支援情報のデータベースの充実と情報提供支援の強化
 経営革新や創業への取組み、効率的経営のための情報提供が求められている。このため連携組織支援情報のデータベースの充実が必要である。この情報は鮮度が求められており、他支援機関の協力も含め情報提供支援強化を実施していくことが肝心である。

4.環境・リサイクル・エネルギー・安全等の社会的な課題への対応
 環境問題は、かつての公害問題のように一地域の問題ではなく、地球温暖化、オゾン層の破壊等々現在では地球規模の問題へと拡大・深化している。これらの重大な環境問題の解決に取り組み、「持続的発展が可能な社会」「循環型社会」の構築に鋭意努めなければならない。
 このような状況に則して我国でも昭和42年に制定された「公害対策基本法」はその後の地球環境保全やリサイクル、化学物質に関する法律の制定に伴い、平成5年に制定された「環境基本法」へと考え方を変えている。さらに平成12年4月には「循環型社会形成推進基本法」が制定された。これは緊急課題となっている廃棄物・リサイクル対策を解決するため、従来の大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会から脱却し、生産から流通、消費、廃棄にいたるまで物質の効率的利用やリサイクルを進めることで、資源の消費が抑制され、環境への負荷が少ない「循環型社会」を形成しようとするものである。
 「持続発展が可能な社会」構築のためには、これらの基本法の下、各種の規制法が制定され規制が強化されていく(規制的手法)と共に、自動車税等では環境対応車の税を軽減するなどの経済的インセンティブを与える経済的手法も考えられている。さらに平成8年ISO14000シリーズの規格が発行されると、環境問題をマネジメントの一環として組織が自主的に取組んでいく経営的手法(ISO14001認証取得)も普及しつつある。このISO14001認証取得による環境管理への企業の取組み姿勢は社会的評価や経済的評価にも影響を及ぼすものである。(市場メカニズムを利用する手法)
 また、労働安全衛生の問題についてもISOの規格化が検討されていると共に、すでに我国では労働省がOHSMS(安全衛生マネジメントシステム)指針としている。(労働省指針とISO規格案は内容同じ)
 ところで、当中央会が実施した実態調査によれば、「現在の実施事業」をみると「環境整備施設の設置」3.6%と「共同購買・仕入」32.5%、「共同宣伝・販売促進・イベント」25.0%など直接自社の収益に関わる事業に比べ低いものとなっている。また、「今後の重点事業としたい事業」でみても「環境整備施設の設置」については4.2%と現在の実施事業の比率に比べ若干多くなっている。社会的問題に対する事業項目が「環境整備施設の設置」しかないこともあるが、この問題に対する意識が低い状態であることは否めない。
 以上の実態を踏まえて、中央会は下記の支援事項に取り組むことが肝要である。
(1) 環境や安全に対する社会的課題への意識向上と啓蒙活動の推進
 目下、環境や安全に関する問題意識が低い状態にあるが、企業は好むと好まざるに拘らず、環境や安全に対する社会的課題に取り組んでいかなければならない。
 まず、社会的課題に対する事業者の意識啓蒙活動から始めることが必要と考えられる。
 意識の向上と啓蒙にあたっては、各業界が早急に対応しなければならない社会的問題等について整理し、これらの情報を業種別組織を通して行うことで、その緊急性などが理解でき、意識啓蒙に有効なものとなることが考えられる。
(2) 業種別組織のネットワーク活用による取組みの強化
 ところで、個々の事業者による対応では資金等で困難な面が多々あるので、業種別組織のネットワークの活用による取組みが非常に有効であると考えられる。要するに、社会的課題への取り組みは組織的に行うことか肝心である。

5.消費・流通構造の変化への対応
   − とくに商業・サービス業の新たな環境変化への対応 −
 商業・サービス業を取り巻く環境は、消費者志向の変化、社会生活環境の変化、流通構造の変化、規制緩和の進展と大きく変化している。
 中小小売業を取り巻く環境は、モータリゼーションの進展や規制緩和に伴う大型店の進出等により、業態・地域間競争の激化、中心商店街等商業集積の空洞化といった問題を引き起こしている。これらは単に中小小売業や商店街によって解決可能な問題ばかりではなく、交通インフラの問題や都市部の居住人口の問題、都市機能の問題等、街づくりの問題として取組まなければ解決できな部分も多い。このような問題に対し国は「中心市街地活性化法」「大規模小売店舗立地法」制定と「都市計画法」改正のいわゆる「街づくり三法」により、街づくりのためのツールを整備している。特に中心市街地活性化法においては従来の個店(点)や商店街(線)への支援ではなく中心市街地(面)として捉えた支援策を多省庁の協力により実施していくとしている。
 卸売業においては、流通構造の急激な変化が起こっている。具体的には流通経路が短絡化し、自助努力なしには企業自体の存立基盤が失われる危険もはらんでいる。
 サービス業においては細分化された業種毎において事情が違うものであるが、IT(情報技術)を活用した新業態が多く輩出されていることや、企業内の既存業務のアウトソーシングに対する需要の高まり、そして成熟社会の新たなニーズとして文化志向等への高まりが要因となり、サービス業のウェイトは総じて増大しつつある。
 当中央会が実施した実態調査によれば、小売業が実施している「現在の重点事業」は「共同宣伝・販売促進・イベント」63.6%と一番多く「クレジット・商品券発行」18.2%が続いている。また「今後重点としたい事業」においても「共同宣伝・販売促進・イベント」27.3%、「クレジット・商品券発行」27.3%と他の事業に比べ格段に多くなっている。卸売業が実施している「現在の重点事業」は「情報の収集・提供」27.8%が一番多く、「教育・訓練、人材養成」22.2%が続いている。また「今後重点としたい事業」においても「情報の収集・提供」22.2%が一番多く、「教育・訓練、人材養成」16.7%が続いている。
 サービス業が実施している「現在の重点事業」は「共同受注」27.3%が一番多く、「教育・訓練、人材養成」21.2%が続いている。また「今後重点としたい事業」においては「教育・訓練、人材養成」36.4%が一番多く、「共同受注」33.3%と続いている。
 以上、商業・サービス業に対する環境変化やそれぞれの課題そして対応を一くくりに論ずることは不可能であるが、いずれも大きな環境変化の中にあり既存組合や連携組織を通して支援をすることが有効と思われる。以下、中央会は業種別重点支援策を講ずべきである。
(1) 中小小売業振興への支援強化
 「共同宣伝・販売促進・イベント」、「クレジット・商品券発行」と他の事業に比べ格段に多くなっている。このことからも共同販促事業等を通した商店街、同業種組合、小売業組合等を通した中小小売業の魅力創造支援が必要である。また商店街においては空き店舗対策も視野に入れた新陳代謝機能の強化、業種構成を含めたマネジメント機能強化により、魅力創造に対する支援も必要である。
(2) 中小卸売業の革新・発展への支援強化
 アンケート調査結果からも分かるとおり、中小卸売業担当企業は、提供できる情報の収集と営業担当者の資質向上によりリテールサポート(小売支援)機能の強化を強く望んでいるものといえる。この他、他業種との連携支援により自社製品開発能力強化を図ることと、情報化や施設共同化の促進支援により卸売業者の体力強化を図っていくことが必要である。
(3) サービス業の創造性発揮と体質強化への支援強化
 サービス業は人に依存する部分が大きいため人材養成に対する要請が強いので、サービス業特有の人材養成事業への支援を強化する必要がある。
 業界全体としてはニーズが増大しているものの市場に安定性がないため「共同受注」による事業安定化に対する要請が多いものと考えられる。これらの要請に対する支援も重視すべきである。
 いずれにしても、商業・サービス業は新陳代謝の激しい業種であり、創業・新業態開発に対する取組み促進のための人材養成を連携組織の活動を通して支援していく必要がある。

6. 少子・高齢化時代の多様化する雇用問題への対応
 今後10年程度で、労働力人口は、若年層(15〜29歳)が400万人減、高年齢層(55歳以上)が380万人増と、年齢構成が大きく変化する。現在の若年層に偏った労働力需要構造が今後も変わらないとすると、高年齢者の失業問題が深刻化する一方で、企業にとっても若年層の急減による大幅な要員不足が生産活動への障害をもたらす。このため、着実に企業における雇用需要構造を「より少ない若年とより多い中高年」という供給構造に見合ったものに大きく変革していく必要がある。
 このような少子・高齢化時代における雇用供給構造への対応状況を平成12年に中央会で実施した中小企業労働事情実態調査の結果から探ってみる。
 まず定年制の有無についてであるが、全回答では「定年制があるとしている企業」の比率は84.5%となっている。これを規模別でみると、「1〜9人」50.0%、「10〜29人」87.9%、「30〜99人」97.7%、「100人以上」96.9%と小規模な企業ほど定年制を定めていない状況である。
 この定年制を定めている企業の中で「定年到達者に勤務延長又は再雇用する制度があるか」についての回答は、全体で60.1%の企業がそのような「制度がある」としており、18.8%が「現在制度はないが制度を設ける予定」としている。しかし、これも規模別でみると「何らかの制度がある」としている企業の割合は「1〜9人」33.3%、「10〜29人」59.0%、「30〜99人」66.2%、「100人以上」93.6%となっており、規模が小さい企業ほど対応が遅れていることがわかる。
 また「この制度が適用される対象者の範囲」についての回答は、勤務延長制度については47.9%が「原則として希望者全員」としている。これも規模別でみると「1〜9人」38.5%、「10〜29人」45.9%、「30〜99人」50.0%、「100人以上」66.7%となっており、小規模企業ほど制度適応対象者の範囲が狭くなっている。再雇用制度についても31.9%が「原則として希望者全員」としているが、規模別では「1〜9人」25.0%、「10〜29人」27.8%、「30〜99人」35.1%、「100人以上」36.4%と小規模企業ほど制度適応対象者の範囲が狭くなっている。
 それぞれの項目の比率を見ると高齢者雇用に対する企業の関心や対応は高く思われるが、質問項目が進むに連れ「定年制の有無」「定年到達者に対する制度」「制度適用対象者の範囲」の各項目の回答が乗数となることを考えると、規模の小さな企業の高齢者雇用に対する認識や対応の遅れが顕著であることがわかる。
 中長期的により顕著となる労働力人口の減少への対応として、高年齢者活用に向けた世代間の働き方の仕組みの構築が必要である。さらに女性の有効活用も重要である。「男女雇用機会均等法」「育児・介護休業法」「男女共同参画社会基本法」等、女性の社会進出を促す法整備は順調に進んでいるものの、就業を希望しながら育児との両立の難しさや能力を活かせる形での雇用機会の不足から現実には女性活用に至っていないものである。これらに真剣に取り組まなければ中小企業は深刻な労働力不足に見舞わられる危険性をはらんでいる。
(1) 高齢者雇用対策への意識強化と高齢者雇用の情報提供での支援
 労働力供給構造への対応準備が、来るべき少子高齢化時代の雇用問題に対する課題といえる。高齢者雇用においては、職種間の雇用のミスマッチや、年齢間の雇用のミスマッチの解消が大きな問題となる。この問題に対し、組合等の中小企業連携組織とのネットワークの活用を通して、中小企業の労働事情の実態を把握すると共に、先進事例の情報や労働関係機関の各種施策情報の収集にも努め、業界等のニーズに応じた情報提供で支援していくことが必要である。
(2) 女性の有効活用に向け能力開発と交流・情報交換の支援
 平成12年11月、石川県中小企業団体中央会女性部が設立されている。この会は女性の持つ斬新な英知と感性を中小企業活動に活かすことと、女性の経営意識の高揚による女性経営者育成を目的としている。この会を活用し、女性の能力開発と交流・情報交換を支援していくことが必要である。これにより、単に女性の労働力を活用するだけではなく、女性の経営力を有効に活用できるようにしていくことが重要である。
(3)高齢者による創業等の促進支援と就業機会の創出
 組合等の中小企業連携組織の活用による高齢者の創業等の促進支援を図るととに就業機会を創出していくことが大切である。

7.中小企業の新たなるグローバリゼーション進展への適切な対応
 グローバリゼーションの進展は中小企業にとって多くの環境変化をもたらしている。これには従来いわれていた貿易や海外投資の問題ばかりではなく、労働、金融、為替、環境、食品安全性等その範囲は大きく広がっている。しかし、特に円高の定着による国内産業の空洞化問題と、グローバルスタンダード(国際基準)の重要性の増大が大きな問題といえる。
 円高の定着は、昭和60年のG5(プラザ合意)以降の急激で大幅な円高に始まり、現在の対ドル円レートは1ドル=110円前後を推移している。この円高状態の定着と中国をはじめとしたアジア諸国の急成長により、輸入の増加と輸出の減退がおこり、食品や繊維等の軽工業から家電、自動車へと多くの企業の海外生産シフトが促進された。この動きは国内産業の空洞化を招き、国内産業に大きな打撃を与えている。石川県においても繊維産業関連の業種をはじめ打撃を受けている企業が多く、厳しい状況におかれている。
 グローバルスタンダード(国際基準)の重要性増大については、ISO規格について平成7年に発効したWTO/TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)で、WTO(世界貿易機関)加盟国が国家規格を制定する際には、原則として国際規格を基礎とすることとされた。中小製造業のISO対応はISO9001〜3については8%の企業が既に取得し、26%の企業が審査登録を検討しており対応は進展している。また、ISO14001については既に取得している企業は1%に過ぎないが、23%の中小製造業が取得を検討しており、関心の高さがうかがわれる。(平成12年版,中小企業白書より抜粋)また、国際会計基準に沿った会計制度の見直しの動きが本格化している。
(1) 国際競争力強化への支援
 グローバリゼーションの進展や円高の定着による国内産業の空洞化問題に対する対応は、品質、コスト、納期といった基本的な経営姿勢の対応だけでは競争に勝てるものではなく、自社の得意分野をいかした高性能、高機能、オリジナル性の強化といった経営能力の強化が求められている。これは経営資源に限界のある中小企業にとって、個別の企業単位では対応に困難な面が多い。したがって、中央会は異業種交流や企業間連携等のネットワーク化を推進し、国際競争力強化のための経営能力向上を支援していくことが大切である。
(2) 国際基準への適切な対応とその指導・支援
 ISO規格については、先に示した中小製造業だけではなく、建設業を始め多くの業種において、国際基準への対応が迫られつつある。また、ISO審査登録により、不良品率の低下によるコスト削減、苦情の減少、経営管理体制の構築、取引時 の信用力向上といったメリットがある反面、事務量の増大等のデメリットも考えられる。このことより、ISO審査登録の必要性を正確に判断できる情報提供支援が必要である。また、ISOの審査登録には導入時に極端な負担が掛かることと、内部の人材養成が必須であることから、組合等の連携組織を通して導入時の指導や人材養成の支援をしていくことが重要である。
 また国際会計基準については、今のところ株式公開企業に適用されるものであるが、主な変更点である、キャッシュフロー重視、連結決算制度、時価会計制度の3点についての認識を深めるため情報提供することが望ましい。


第2部 21世紀における中央会活動の活性化に向けて


1.指導員等の資質の向上(資質の充実と能力の向上)
 中央会の指導力を強化する最重点課題は指導員の指導力強化にある。指導員の指導力強化のためには、指導員の資質の充実と能力の向上そして各人の努力の3点が揃わなければ成果は上がらない。人は誰でも能力もあれば、意欲も持っている。この能力を伸ばし、意欲を高めるためにはインセンティブ(刺激、動機、誘引)が必要である。
 このようなインセンティブを与える仕組みをいかに作るかが指導員の資質の向上につながるものと考える。また、中央会職員はパブリックサーバント(公僕)としての性格が色濃いものであることの再認識も大切である。中央会の仕事は物の販売や生産の仕事と違い具体的な数字でその成果が現れるものではない。また、内部的評価のみで満足すべき種類の仕事でもない。本来、会員組合からまた組合を構成する中小企業者から本当に感謝されることが、あるべき評価である。中央会の仕事をこの認識に立ち返り考えることが、資質の向上を考える基本となる。
(1) 幅広い知識と専門化
 前項で記載した通り、近年は本来の業務である組合指導ばかりではなく、多様な指導事項が急速に増加すると共に、その内容も急速に変化している。そのような多くのテーマすべてに対して、専門家であることは現実には不可能である。
  1) 総合的に求められる知識
 中央会職員として総合的に求められる知識としては、組合の設立から運営にいたる組合指導に関する全般については指導内容の一貫性保持のためにも、一定の水準以上の知識を持つことが望まれる。そのため、全国中小企業団体中央会、中小企業総合事業団が主催する講習会に参加し、一定の年限内に習得する規定を明確にする必要がある。関連法規の変更等に関する説明会等への参加も重要である。これらの説明会等への全員の参加が不可能な場合には説明会受講者による内部研修の実施により、全員への周知徹底をすべきである。また、知識として知っていても指導現場では臨機応変な対応が望まれるものであり、このような対応ができるためにも経験豊富な職員による事例を活用した内部研修を実施していくことも重要である。
 近年の経済情勢の変化等についても一定レベルの知識を保有すべきであり、内部講師や外部講師による定期的な講習会開催によりレベルアップしていくことが大切である。
  2) 専門的に求められる知識
 情報化の進展、環境等社会的問題に対する対応、少子高齢化時代の雇用問題等、中央会の指導員にとって知識として持つべき多様な問題がある。しかし、これらをすべて把握することは不可能である。このような問題については職員間で分担を決め専門家として育成していくことが望ましい。このような専門家育成においては、中小企業診断士、中小企業組合士、情報処理技術者等の資格取得を奨励することも有効である。そのため必要な参考書の購入、通信教育受講の推奨、教育実習期間の設定等の支援を強化する。
 しかし、内部での専門家養成ばかりにとらわれるのではなく、中央会の業務分野を明確にし、外部専門家に指導を求めていくことも実施しなければならない。限られた人員による業務であるため内部でカバーしきれなくなることは避けるべきである。
(2) 人事交流の活発化
 商工会議所、商工会を始め他支援機関では人事交流を実施している。これは、指導事業の改善や職員の指導事業に対する認識の改革だけではなく、他支援機関や行政との人脈づくりにも効果がある。また、他支援機関から職員を受け入れることによって、中央会独特の事業を理解してもらうことは中央会を再認識してもらうことにもなり、今後考えていく連携体制の強化にも有効なものとなる。
(3) 研修システムの充実
 (1)でも触れた職員各人に対する人別のカリキュラムを、職務経験度や希望専門分野に合わせ構築することが望まれる。これは基本的に外部研修を活用することになるが、各人の職務経験年数や経験分野を配慮し、総合分野と専門分野に分け研修システムを構築することが求められる。
 内部研修については、年間スケジュールを立て定期的に実施し、職員全員の更なるレベルアップを図るべきである。実施については、外部講師に依存するばかりではなく、内部講師を多用することで講師を担当する職員の更なるレベルアップを図る。また、この内部研修は職員間の情報交換・知識の共有化の機会として活用できるものとする必要がある。
(4) 評価システムの構築
 この評価システムは人事考課的な給与査定や賞与査定を目的としたものではなく、業務や知識習得にインセンティブを与える要因となる評価システムを考えていくことが重要である。
 各職員は業務目標、知識習得目標、努力目標等を事前に各自で設定し、その量や質について直属の管理職担当者と目標設定の妥当性を話し合い、半年後又は1年後にその評価を自己及び管理職担当者により実施する。このようにすることは孤立無援で仕事や知識習得に対するのではなく、他者に見守られている実感が得られるメリットがある。しかし、一方では他者に仕事や知識習得を強制されていると感じる可能性もあり、ミーティング(事前、事後)に立ち会う管理職担当者の人間性や人材育成能力も問われるものである。

2.支援業務等の効率化
 支援業務の効率化は、中央会としての指導体制および組織体制の再編成あるいは再構築と大きく関わってくる。基本に立ち戻り中央会の指導事業を考えると、かつての中小企業指導は大企業との格差の是正のため組織化を推進することであり、その組織を活用した金融や共同事業の支援であった。現在の中小企業指導の視点は中小企業の持つ創造性を如何に引き出していくかが中心である。これにより中央会の指導体制を柔軟に変化させていくことは必然であり、それに伴い組織体制を変えていくことも当然必要となる。
(1) 支援業務体系の整備
 上記の通り、中小企業指導の視点は大きく変化している。しかし、従来の事業をまったく否定しているのではなく、従来の事業に新たな観点の指導事業が増加している。これを個別的に上乗せしていけば指導業務は必然的に増大するものであり、既存事業と新規事業の統廃合を柔軟にしていくことで限られた人員での指導は可能となる。
 ここで考えるべきことは、まず支援事業の重点をどこに置くかである。またこれまでの事業と新規事業の内容を吟味し、業種別、地域別、事業別等の組み合わせをどのようにするかを考えていくことが重要である。
(2) 柔軟な組織体制の構築
 支援業務体系の整備には組織体制の変更も必然的に考えられる。従来は業種別による指導体制の組織であった。しかし、これでは課が違っても同じ内容の業務を違う職員が行うかたちである。限られた人員による効率的な組織体制としては組合設立や運営など専門的に業務執行できる組織編成を考えることが重要である。
 また恒常的に存在しない業務はプロジェクトチーム編成による取り組みも考えられる。しかし、これは全職員が通常の業務を持っている中で実施していく必要があるため、プロジェクトチームのメンバーだけではなく、関連部署の全体的な支援体制が求められる。さらに執行者の強力なリーダーシップも大切である。
(3) 効率的な意思決定システムの構築
 支援業務の効率化だけではなく、他の項目についても再構築が求められている。勿論、会員執行部の理解を得ることが求められる部分もあるが、中央会事務局内部の問題についてはトップを形成する管理者層がマネジメント力を発揮し意思決定していかなければ、いかなる提言も実現不可能である。そのためにも効率的な意思決定システムを構築することが必要不可欠である。
(4) 関係部署の連携の強化
 上記のように組織体制を再編成した場合には、1つの組合を複数の指導員が指導内容別に担当するかたちとなるため、その組合に関わる指導員の連携強化を図らなければ連携不備による指導体制の悪化が懸念される。このような懸念を排除するために、連携のマニュアル化等の整備により従来以上に各部署の連携の強化が要求される。
 また、内部組織の充実を図るためには、外部支援機関の専門性を有効に活用し、相互の連携を図っていくことも重要である。
(5) 専門家の活用・アウトソーシングの実施
 指導員の専門的知識の養成も必要であるが、中央会の業務分野を明確にして専門家を活用していくことも、指導レベル維持向上のために重要である。
 また、中央会職員は指導業務、管理業務等多様な業務を抱えている。より質の高い指導業務を実施するためには管理業務ばかりではなく指導業務についてもアウトソーシングできるものを整理し実施していくことが肝要である。
(6) 指導事例、指導ノウハウの整理の推進
 中央会では永年の指導業務の中で多くの指導事例、指導ノウハウを蓄積している。これらを有効活用していくことが指導業務の維持向上につながると共に、支援業務の効率化にもつながる。そこで、指導事例をデータベース化することと指導ノウハウのマニュアル化をすることがそれらの活用につながる。これらの整備が急務である。

3.情報化による中央会支援機能の充実・強化
 情報化の進展は飛躍的に進歩しつつある。中央会においてもハードの整備やホームページの作成など時代の要請に遅れることなく情報化に対応してきている。これにより、情報化対応を進めている会員組合に対しては電子メール等による情報提供や迅速な連絡も可能となっている。しかし、多くの会員組合において情報化に対する対応遅れが見られ、情報化による中央会支援機能を充分発揮できない現状にある。
 また、指導実績等のデータベース化の遅れによって、情報機器活用による現地指導は充分実施されているとは言い難い現状にある。
 これらの早期対応により中央会支援機能の強化を図ることが重要である。また、今後もこのようなIT技術の進歩・発展が続くものであり、それに柔軟に対応していく体制を保持していくことが大切である。
(1) 会員への情報化支援の強化
 情報化による利便性をすべての会員組合に享受してもらうため、また中小企業者の情報化対応推進のためにも、情報化支援強化が急務である。
 そのためには第一に組合や中小企業の人材養成が必要である。又個々の会員組合に応じた情報化推進が必要であり、そのために情報化の企画提案ノウハウの蓄積も重要である。
(2) ホームページ、電子メール等の活用
 近い将来の全会員組合の情報化対応を前提に、ホームページ、電子メール等の活用による連絡体制、指導体制への変革をしていくことが望ましい。
 これは中央会事務局の経費削減に大きく貢献するばかりでなく、組合を通じての中小企業者とのコミュニケーションがダイレクトに組合員に実施できるメリットもある。さらに、中央会職員へのダイレクトな連絡も迅速に行えるだけでなく、携帯電話等の端末機器の活用により、週末や祭日のメールチェックも可能となることで、休み明けの迅速な対応も可能となる。
 また、中央会のホームページを通して相談指導も可能である。このような機能を活用することで、迅速な指導を可能にするばかりでなく、職員の移動時間削減といった効率化も図ることが可能となる。
(3) 指導事例等のデータベース化の推進
 指導事例等各種の情報のデータベース化を推進することが大切である。これは指導員が現地指導に出向いた折、従来なら関連資料を事前に準備または事後に郵送等の処理したものも、携帯型パソコンや組合のパソコンの活用により、中央会のサーバーにアクセスすることで関連データを引き出すことが可能となる。これによりリアルタイムで適切な指導が可能となるものである。
(4) 的確な情報提供判断能力の養成
 情報革命による大きな変革は、職場や家庭で多くの情報を瞬時に入手できることである。しかし、この情報は量が膨大であるため、今必要な情報はどれか、今重要な情報はどれかを見分けることができなければ、その情報を有効に活用することは不可能である。これは重要な事項であり、情報発信側である中央会職員はこの重要な情報を見分ける能力を養成していくことが肝要である。

4.事業の評価の実施
 事業の評価は、単に評価として独立し存在するのではなく「計画→執行→評価」の循環の中で考えていくべきものである。すなわち、しっかりとした事業計画を立て、それに基づく執行を行い、それについて評価するものである。このように事業の評価は組織的な活動である。これは事業全般についても又個別事業についても実施することが大切である。そうすることで「支援業務等の効率化」の項で「支援業務体系の整備」として記述した内容につながる結果が得られるものと考える。
(1) 「計画→執行→評価」システムの構築
 「計画」段階では計画実施に対し期待される結果も盛り込まれるものであり、実施結果との差異をどのように評価し、翌年の事業計画に改善事項として反映させていくかである。
 しかし、その結果の差異は中央会の事業では定量的に量れるものは非常に少ないものである。そのため担当者レベル、課レベル、そして事業を受けた組合等の3段階で評価することが有効である。また、計画改善執行者である管理職担当者にその情報を迅速に報告することが必要である。
(2) マネジメント力の養成
 ここで改善策を盛り込んだ計画策定は管理職担当者の任務であり、より効果的な新計画は管理職担当者の手腕に掛かっている。収集した情報からの判断力、適切な改善策の計画立案力、執行に当っての適切な指示は管理職担当者のマネジメント力に負う部分であり、その能力の養成が求められる。
(3) 事業評価との関連付け
 中央会の実施事業は、予算要求の段階から翌年事業の実施方針を明確にすることが求められる。しかし、予算要求段階では終了した事業は少ないものであることが現状であるが、事業の評価と予算編成を結びつけることがなければ改善は在り得ないものであり、進捗途上の事業を評価していくことも重要である。

5.会員との関係の強化
 中央会は会員により構成された支援機関である。しかし、会員と中央会職員の接点を見ると、接する頻度の高い組合もあれば頻度の低い組合もあるという現実は否めない。また、組合との接点は役員や事務局が中心であり、組合員との接点は非常に少ない現状にある。このような現状を改善し、より中小企業者のニーズに合った指導事業を実施していくために、中央会と会員組合や組合員とのよりフェイス・ツー・フェイスの関係を作っていくことが望ましい。
(1) 会員組合、組合員との接点づくりの推進
  1) 巡回指導の徹底
 従来より実施している巡回指導は会員との重要な接点であり、これを徹底していくべきである。具体的には、中央会職員の分担を明確化すると共に、年間スケジュールの充実を図り完全消化の方策を検討することが大切である。
 また、ただ会員組合を訪問するだけではなく、巡回指導で何を指導してくるのかを具体化し実践していかなければ、本来巡回指導に求められるコミュニケーションは得られないものである。
  2) 理事会、総会への参加
 これも従来より実施されているが、完全に実施されているとは言い難い。理事会や総会は単に会員組合の活動が把握できるだけでなく、中央会として意見を発言できる場でもある。さらに、総会においては普段顔を合わせる機会のない組合員との接点でもある。このような機会を有効に活用していくことが肝要である。さらに組合が実施する各種委員会、研修会等にも中央会職員は積極的に参加していく姿勢が望まれる。
  3) 地域別、業種別懇談会の実施
 1)2)で挙げた方法だけでは中央会が全会員組合との接点を持つことは困難と思われる。そこで、地域別や業種別に懇談会を実施し、コミュニケーションを取っていくことがより現実的である。
 (2) 中央会役員以外の理事長等の中央会業務参画
 中央会の役員として活躍いただいている理事長については、中央会とのコミュニケーションを持つ機会がある。しかし、それ以外の会員組合の理事長については不充分な点は否めない。そこで、中央会業務に携わっていただくことで1人でも多く中央会とのコミュニケーションを取る機会をつくることが必要である。
 (3) 組合事務局員の充実・育成への支援
 組合組織は一般企業と性格を異にする部分が多い。事務局員は組合活動の企画・立案に関わっていくうえで、組合運営を充分理解していただくことが重要である。そこで、事務局員を対象とした訪問指導や、中央会事務局への短期受け入れによる集中指導など、組合事務局員の充実・育成のための支援策を具体化することが大切である。
 (4) 会員組合の情報収集の強化
 会員組合の実態、行事等具体的な情報が充分収集されているとは言い難い現状である。会員組合の中央会に対する意見も含め、これらの情報収集策を具体的に検討することが肝要である。
 (5) 定款会員に対する支援
 中央会の会員には定款会員が存在する。しかし、これらの会員に対する支援が充分に実施されているとは言い難い現状である。定款会員にとって中央会に加入する意義を拡充させることが重要である。そこで、部会の設置等具体的な支援策を実施することが望ましい。

6.青年部、女性部の育成と協力関係の緊密化
 現在、青年部、女性部を持つ組合は全体の10〜20%程度である。これらの組織は総じて活発な活動に取り組み、組合活動を活性化させる起爆剤となっている。この現状を考えると、青年部、女性部を持たない組合に今後青年部、女性部をつくろうとする意欲を高揚していくことが大切である。
 また、中央会には各組合の青年部の横組織として青年中央会が存在し25年の活発な活動をしてきた歴史がある。そして平成12年11月には中央会女性部が設立され活動を始めている。このような青年部、女性部の活発な活動は中央会全体にも活力を与えており、これらの活動の中心的メンバーを中央会の執行部の役員として登用することは中央会全体の活力増進にもつながるものと考えられる。
 (1) 母体組合への啓蒙普及の推進
 青年部、女性部を設置する必要性について、その母体となる組合の認識はまだ充分とは言い難い。これは、これらの組織をつくることの効用に対する認識の低さに起因するものと思われる。青年部、女性部設置による効用を、事例紹介などを通して認知していくことが望ましい。
 (2) 中央会重点事業としての認識の強化
 青年部については指定事業、一般事業でも財源化を図り青年部の育成を強力に推進してきている。さらに中央会には青年中央会を設置し青年部育成支援を図っている。また、女性部については平成12年に中央会女性部が設立され、青年部と同様に女性部の育成に取り組んでいる。このことを会員組合に認識してもらうことが青年部や女性部の設置育成につながるものと考えられる。
 (3) 中央会あげての育成支援の強化
 青年部、女性部は母体組合の次代を担う人材により構成されている。また青年部、女性部ならではの発想や行動力は、母体組合の活性化の起爆剤であることは否定できない。この点からも中央会あげて青年部、女性部の設置育成を支援していく体制が求められる。その一環として、青年中央会や中央会女性部が位置付けられるものでもある。
 (4) 青年部、女性部のホームページ作成の推進
 青年中央会や中央会女性部の活発な活動は先にも記した通りであるが、これらの活動をホームページ作成により広報することで、会員組合の青年部、女性部設置意欲の高揚につながるものと考えられる。また、青年中央会や中央会女性部の活動意識の高揚にも有効であり、これらの活動への参加意欲の高揚にもつながるものである。
 (5) 中央会執行部への青年部、女性部メンバーの登用
 これまでは、青年中央会のメンバーは中央会役員となっていない。しかし、青年中央会や中央会女性部のメンバーの本会役員への登用や委員会委員への積極的登用は、独自の発想力等により中央会執行部に新風を吹き込むことを確信するものであり、中央会執行部の更なる活性化に貢献するものと考える。

7.行政、関係支援機関・団体との連携体制の構築
 従来より一部の関係支援機関・団体との定期的な連絡協議会等による情報交換は実施されている。しかし、情報交換では連携体制としては不充分である。連携体制の強化にはコーディネーター機能の強化、アウトソーシング機能の強化、イニシアティブ機能の強化等具体的強化策が考えられ、どの機能をどの支援機関とどのような連携体制の場合に強化していくのかを明確にしていくことが必要である。そのうえで、相手先に対する積極的な働きかけをすべきである。
 (1) 関係団体との交流、情報交換の推進
先にも記した通り、情報交換の場は既に存在するものもある。しかし、情報交換の域を出ないものであり、管理職担当者の交流が中心である。今後は、人事交流や共同研修会の開催、意見交換会等、実務者レベルでの交流を図っていくことも必要である。このような交流を通してそれぞれの支援機関・団体の相互認識を深め、具体的な連携内容を考えることが大切である。これにより将来的な連携強化につながるものである。
 (2) 連携体制強化に向けての働きかけ強化
 中央会として協力できることや、行政、関係支援機関・団体に連携を求める事項を整理し、トップレベルによる連携体制強化に向けての働きかけを積極的に行わなければ、連携体制をつくることは不可能である。(1)で記した交流の深耕を第一のきっかけとして、永続的に又具体的に働きかけをしていくことが大切である。
 (3) 他団体(経済機関、行政機関)との共同事業、共催事業の実施
 他団体との共同事業、共催事業を実施するためには、その事業に対する共通の認識とそれぞれの機関が何をすることが可能かを充分協議する必要がある。またコーディネーター機能、イニシアティブ機能等をどのように分担するか、さらに具体的にプロジェクトチームを作る場合には誰が組織を作って実施するか等も重要な協議事項である。これらは相互のトップレベルの協議が望ましい。
 (4) 他団体との情報の共通化の推進
 各支援機関・団体等ではそれぞれの特性をいかした各種の情報を持っている。これらの情報にはデータベース化されたものやそうでないもの、またホームページ等で公表されたものやそうでないもの等がある。従来このような情報の存在は中央会事務局でも知られていたが、完全に把握はされていない。また、活用可能とするための働きかけもあまり行われていない現状である。情報種類が多様化するなか、各支援機関・団体の持つ情報を有効に活用していくことは、業務効率化や指導事業の質の向上に必要不可欠な取り組みである。

8.総意形成機能の充実と政策提言機能の強化
 中央会は県下全域に会員を有する中小企業支援機関であることを考えると、中央会ならではできる機能として政策提言機能が考えられる。現実としては業種・業態や地域を異にする会員相互の総意形成は困難な面が多く考えられるが、会員全員とはいわないまでも、相関連した波及効果がある提言は可能と考えられる。
 他県においては現実に政策提言をしている中央会が存在し、また例年県知事との懇談会を持っている中央会も存在する。そのような状況からも中央会が会員組合の意見を吸い上げ、具体的な政策提言につなげていくことが中央会ならではの事業ではなかろうか。
 (1) 政策提言機能を持つ委員会の設置
 現在、中央会会長の諮問機関として、企画委員会、組織委員会、総務委員会、経済委員会が存在する。しかし、これらの委員会は政策提言機能を専門に取り扱う委員会ではない。そこで、新規に政策提言機能を持つ委員会を新たに設置することが有効と考える。この委員会を構成するメンバーは既に着任している役員や委員は勿論、新規に現在役員や委員の任に就いていない会員組合の理事長も含めて構成していくことが望まれる。また、政策提言をする以上、具体性、実効性を持つ提言である必要があり、広く外部専門家をも含んだ構成とすることが望ましい。
 (2) ニーズ把握のためのアンケート等の実施
 政策提言をしていくためには、その裏付けとなる会員組合の意見の収集が大切となる。そのためには会員組合のニーズ把握のためのアンケート等具体策が必須となる。効果的な会員組合の意見収集策を検討し継続的に実施していくことが重要である。
 (3) 地方大会等の開催
 多大な労力をかけ会員のニーズに合った政策を提言することは、具体的政策として取り上げていただけることが最大の目的である。さらに、この活動を活用し中央会活動を広く県内中小企業者や他支援機関にアピールしていくことも大切である。このためには地方大会の開催や論文の発表等、外部へ向けた情報発信策も検討し実施すべきである。

9.イメージアップの積極的展開
 中央会のイメージアップへの取り組みは、飾り立てた普段とは違った中央会や中央会職員を作り出すことではない。中央会職員全員が魅力ある事業を展開し、会員組合やその組合員にその職務を通して働きかけていくこと自体がイメージアップにつながるものである。このような普段の地道な活動が、中央会の存在意義を発揚し、存在価値が認知され、魅きつける特性を発揮するものである。しかし、存在価値としての中身のあるイメージづくりに努めなければならない。従って、中央会指導員・職員の一人一人がイメージアップの目標を設定し、自らのイメージづくりに努め、進んで中央会全体のイメージアップにつなげていくことが大切である。これまで記した中央会活動は間接、直接を問わず、すべてイメージアップ方策につながる。さらに組合のイメージアップが中央会のイメージアップにつながることも再認識すべきである。
 (1) 中身の濃い巡回指導、現地指導の徹底
 組合や組合員に対して、真に役立つ地道な活動を続けることが大切である。その結果として、中央会の存在価値が認められ、中央会への関心が高まり、実質的なイメージアップにつながる。
 (2) 情報サービスの強化
 広報・宣伝活動の一環として石川県中央会会報及び中央会情報を発刊しているが、より一層創意工夫をこらし、ホットで中身の濃い魅力のある情報を提供するように努める。
 パンフレット、しおり、新聞紙風の中央会だよりなどを発行し、組合、組合員はもとより、未組織中小企業へも中央会活動を広く知らせる。
 また、組合からの問い合わせ、ニーズ要請に迅速かつ正確に伝達するため電子メール、FAX通信を有効に活用し、新鮮かつ即時性のある情報提供に努める。
 (3) インターネットを活用した組合と中央会の情報ネットワークの構築
 各種情報のデータベース化を推進すると共に、会員組合の情報化を積極的に支援し、情報提供機能の強化を図る。
 (4) 組合自体のイメージアップの推進
 組合と中央会は密接不可分の体制にある。従って、中央会のイメージアップは組合のイメージアップにつながり、組合のイメージアップは中央会のイメージアップに資することを再認識すべきである。その意味から、組合のイメージアップ活動を具体化し推進していくことが望ましい。

10.中央会の財政の改革
 中央会の財政改革については、収入面増加と諸経費の削減の2点で考えていく方法が考えられる。
 収入面では、会員からの賦課金収入、国・県からの助成、収益事業が主に考えられる。また、支出面では、事業効率化による諸経費削減が考えられる。
 しかし、収益面から考えると、昨今の景気情勢から賦課金額の増額は厳しい状況にあり、国・県の助成は使い道が決まっており、収益事業の強化でも現在の共済事業以外に中央会の特性より積極的に取り組める事業は限定される。
 このような状況下において、健全なる財政基盤を確保するためには、中央会の役員はもとより職員も一丸となって財務状態への危機意識に基づく、会員組合の増加による賦課金収入増加の推進、共済事業の更なる普及推進、経費削減意識の高揚等を地道に取り組み、時間をかけても改善していくことが肝要である。
 (1) 危機意識の共通認識
 一部管理職担当者には中央会の財政状態が分かっているものの、役職員の共通認識までは至っていない。そのため、経費のなにげないロスの発生や、会員組合増加に対する取り組みや収益事業である共済事業の加入者募集への取り組みに対する積極性に欠ける部分は無いとは言い難い。このような状況を改善するためには財政状態に対する役職員の危機意識の共通認識が不可欠である。
 (2) 新収益事業の創出
 機関の特性により収益事業への取り組みには限界があるものの、組合の事務受託、業務受託など具体的に実現可能な収益事業を考えていくべきである。
 (3) 既存事業の見直し
 支援業務の効率化のために支援業務体系の整備を記したが、経費削減のためにも既存事業の見直しをすることで、効率的で質の高い支援事業をできる体制を整備していくことが重要である。
 (4) 共済制度の充実と共済加入促進策の見直し
 他県中央会との比較において当会の共済加入率は必ずしも高いとは言い難いものである。共済の内容を時代に則した魅力的なものに改善していくことや、保険会社に取り扱いを全面的にまかせることも考え直すことで共済制度を充実させ、さらに役職員は一致して共済加入推進体制を構築することが必要である。
 (5) 組織化の推進と会員の増加
 組織化に関しては、新規事業の創出など新しいニーズやシーズが出現しており、それに対応していくことも含め、組織化を推進していくことが大切である。組織化推進活動に取り組むと共に、新しく組織化された団体に対する本会加入への積極的な勧誘は、収入増加の大きな要因となるものである。
 (6) 中長期財務計画の作成
 中長期財務計画の作成は将来の財務状態を予測することができるものであり、状況予測は早期の対処策の立案や着手を可能にするものである。また、今後取り組んでいく改善策で具体的にどのように体質が改善されていくのかも予測できるものである。
 このような財務計画の立案なしに、危機感のみを醸成することは職員の士気にも影響するものであり、中長期財務計画作成が急務である。



主要参考文献・資料一覧(順序不同)……執筆者 丹野関係

1,丹野平三郎「地域産業の振興と中小企業の多角的連携」『地域産業振興と中小企業の多角的連携に関する調査報告書』北陸経済調査会、2000年
2,丹野平三郎「地域コミュニティと中小企業」藤田敬三・竹内正己『中小企業論・第4版』有斐閣、1998年
3,石川県中小企業団体中央会編「中小企業の創造戦略―多角的連携の実践ノウハウと関連情報」石川県中小企業団体中央会、1998年
4,石川県中小企業団体中央会アクションプログラム21策定委員会編「平成5年度組織活動展開事業報告書〜変革期に応える中央会の組織・指導体制のアクションプログラム〜」石川県中小企業団体中央会、1994年


お わ り に

―県中央会21世紀ビジョンの達成をめざしてー


 先の県中央会アクションプログラム(組織活動展開事業)の策定以来10年も経たないうちに、何故「中央会21世紀ビジョン」を策定したのか。21世紀になったからなのか。
 新しい世紀を迎えたというより予想をはるかに上回る内外環境の激変と長期構造不況という重大な試練に直面していると認識したからである。日本経済の持続的拡大期には適合していた日本型システムでは内外環境の激変に対応できず、長期構造不況という暗く長いトンネルから抜け出せないと自覚したからである。
 作業部会は、第1回策定委員会の策定項目設定の指示に従い、「21世紀における県中央会の課題とあり方」および「21世紀における中央会活動の活性化に向けて」の策定項目の内容について検討した。メンバー各自が「県中央会をめぐる環境の変化と直面する課題」について自らの認識と見解を文書にて表明し、デスカッションを重ねた。県中小企業および中小企業組織の維持・発展にとって重要な役割を担っている県中央会の課題とあり方は何か。その課題にいかに対応すべきかを論じた。
 かくして、新しい中小企業の組織化の方向性として「中小企業連携による経営革新、創業」をビジョン策定の重要課題と認識し、多角的連携の展開とそれの対応に力点をおいた。以下、「急速に進展する情報化への対応」、「環境・リサイクル・エネルギー・安全等の社会的な課題への対応」、「消費・流通構造の変化への対応」、「少子・高齢化時代の多様化する雇用問題への対応」、「中小企業の新たなるグローバリゼーション進展への適切な対応」を提言した次第である。 では、「21世紀における中央会活動の活性化に向けて」のテーマにいかに取り組むべきか。県中央会「指導員等の資質の向上」に努め、「支援業務等の効率化」を図り、「情報化による中央会支援機能の充実・強化」を推進し、「事業の評価の実施」を励行してさらなる新事業計画立案の充実に生かすシステムの構築に意を注いだ。
 もとより「全国中央会の21世紀ビジョン」を参考にしているが、県中央会活動の独自性を発揮するため構想を練った。その結果、県中央会の課題に有効・適切に対応するためにはこれまで以上に「会員団体との関係の強化」に努め、「青年部、女性部の育成とこれらとの協力関係の緊密化」を図り、「行政、関係支援機関・団体との連携体制の構築」に注力し、「総意形成機能の充実と政策提言機能の強化」に努めるよう提言した。 かかる一連の活力ある中央会活動を通じて中央会の存在価値を高めるとともに、進んで「イメージアップの積極的展開」の必要を強調した。そして、中央会活動の充実のためにも「中央会の財政の改革」が不可欠であることを明記した。
 本格的グローバリゼーションの進展とIT(情報技術)革命のうねりのなかで、国の内外を問わず激しい競争が展開されている。石川県の産業および地域経済もメガコンペティションの渦中にある。グローバリゼーションの進展とIT(情報技術)革命は、表裏一体となって製造業、流通・商業、サービス、建設など産業全般にわたり画期的な新業態や新規ビジネスの台頭と普及を促している。同時に、激しい競争は、不均衡、不確実性とリスクが増大し、その結果として新たな淘汰を引き起こすことになる。このような激変する産業界を生き抜くためには、時間との勝負となってきている。企業にとっては、絶えず変化する技術とマーケット・ニーズに対応するには「俊敏さ」(agility)こそが競争力の要であることを改めて認識すべきである。
 中央会もまた「俊敏さ」(agility)が競争力の要であるという時代の要請を肝に銘じて「21世紀における中央会活動の活性化に向けて」の新課題に取り組ことが肝心である。コミュニケーションを的確、迅速に深めるために情報のネットワーク化が必要になっているのである。しかし、それには、濃密な「フェース・ツゥー・フェース」の人間的コミュニケーションを通して相互理解と信頼関係が確立されていることが前提となっていなければならない。
 幸いにも石川県は、自然の環境に恵まれ、歴史と伝統文化に育まれた石川県人特有の相互理解と信頼関係に裏付けられた団結力、蓄積された技能、技術とそれらを保持・錬磨するねばり強さと勤勉さを備えている。
 中央会当事者はもとより会員団体関係者は、中小企業の存立・成長と石川県の産業および地域経済の発展のため、優れた石川県の特性を生かしながら英知と情熱を結集し、「県中央会21世紀ビジョン」の達成をめざして前進することを期待する次第である。